第7章
過去、そして未来
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奥の和室では寛也と杳が、つまみ食いをしたのしないのと言い争っていた。部屋に入ってきた潤也に気づくと、告げ口するように言ってくる。
「潤也ぁ、ヒロってば行儀悪すぎっ」
「いいじゃねぇか。どうせ食うんだから」
「でも、ちょっと待ってよ。みんな揃ってからだろ」
言う間にも皿に手が伸びる寛也を、とうとう杳は突き飛ばした。容赦ない様子だった。
「ホント、食べ物には手癖が悪いくせにね…」
潤也がつぶやく意味深な言葉に、翔は苦笑するしかなかった。
「ヒロ、食べてばかりいないで、グラス持ってきてよ」
潤也に言われ、寛也はポテトフライをひとつ摘まんでから立ち上がった。
「あ。取り皿も忘れないでね」
「んなに持てるか」
そのままキッチンへ消えていく寛也を見送って、呆れたように小さくため息を漏らしてから、杳は翔を見やる。
「好きなとこ座っていいよ。でも、オレの隣はヒロだから」
言い聞かせるように言う杳は笑顔を向けていた。すぐにグラスを持って戻ってきた寛也が、その横から口を出してきた。
「って、杳、お前勝手に決めてんじゃねぇよ」
グラスを座卓の上に並べて、寛也は杳の側に寄る。
寛也はどちらかと言うと、杳が今座っている位置が一番テレビも見えるので良いと思っていたのだ。
「あー、やなんだ、オレの隣。いいよ、それなら潤也の隣に行くから」
「わー、まてまてまてーっ」
寛也は慌てて、最初に杳が寛也用にと指定した席へ座り込んだ。
「俺、ここでいい。ここでいいからな、な?」
下手に出てなだめすかすように言う寛也に、杳は調子がいいなと少し頬を膨らませてみせる。
それを眺めて、ばかばかしくなる潤也の耳に、ポツリと翔の声がした。
「あれ…嘘です」
何げなく振り返ると、翔はバツが悪そうな顔をしていた。
「嘘って…?」
「杳兄さんを抱いたって言うの、嘘なんです」
「はあ!?」
声が大きくなる自分の口を慌てて塞いで、潤也は部屋の外まで翔を引っ張っていった。
「何? どういうこと? だって、あのキスマーク…」
ヒソヒソ声で聞く潤也に、翔はそわそわしながら返す。
「あれは本当にしました。でも…杳兄さん、僕の腕の中で震えていて…できる訳ないですよ。だから、ちょっと術をかけました。ヒロ兄に先を越されたくなかったから」
その翔の告白に、潤也は大きくため息をついた。
「翔くん…天人は転生しても、相変わらず…」
自分本位だとは、口には出さなかったが。