第7章
過去、そして未来
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そこにひっそりと立っていた人物に言葉を詰まらせる。それは、昨夜追い返した翔だった。
翔はばつが悪そうに、少し俯き気味だった。
「何だジュン、誰が来て…」
何とか杳の手から唐揚げ1つを掠め取り、それを口に放り込みながら、寛也もヒョッコリ顔を覗かせて、そこに立つ人物に息を呑む。
また追い返してやろうかと思った途端、寛也の背から杳の声が聞こえた。
「あれ、翔くん?」
振り返って見た顔は、何のわだかまりも持っていない様子で、先ほど料理を目の前にして喜んでいたのと同じくらいの笑顔だった。それに驚いているのは寛也や潤也だけではなく、翔も面食らった様子だった。
「あの…杳兄さん…」
「どうしたの? 外、寒いから中に入ったら?」
「でも…」
翔は潤也と寛也をチラリと見る。潤也は冷たい目で見ているし、寛也は思いっきり怒りのオーラをたぎらせていた。
「いいから」
杳は玄関口にいた潤也を押しのけて翔の手を取ると、中へ引き入れた。それから急いでドアを閉める。
「ったく、部屋の中、寒くなるだろ」
そう言って、すぐに背を向けてしまった。まだクリスマス会の準備を続けようと、寛也に声をかける。
「ヒロ、早く早く。手伝って」
アッケに取られている寛也の腕を掴んで引っ張る杳を、翔は慌てて呼び止めた。
「杳兄さんっ」
名を呼ばれると杳は動きを止めて、しばらくそのままで考える様子を見せてから、ゆっくり振り返った。
「ごめん…ごめんね、杳兄さん。あんなこと…でも僕はずっと杳兄さんのこと…」
「それ、差し入れ?」
「え?」
翔の言葉を遮って杳が指を差したのは、翔の手に下げられていた風呂敷包みだった。中身は重箱だろうか。
「あ…うん。おばさんが持っていけって」
言いながら、翔は風呂敷ごと差し出した。
「おおーっ、すげー。杳んちの母さん、料理うめぇもんな」
そのまま手を出して受け取る寛也に、潤也も驚いた。
「ヒロ?」
「手土産持ってきた奴、追い返すって法はねぇよな」
言って、ポンポンと翔の頭を叩く。翔はされるままで、そんな寛也に潤也も毒気を抜かれた思いがした。
「ま、いいや。翔くん上がりなよ。これからクリスマス会するところだったんだ」
潤也も玄関口に突っ立ったままの翔の背を押す。未だ気まずそうにした翔は慌てて返す。
「これ、持ってきただけだから…」
「うん、そうだろうけど。やっぱりパーティは人数が多い方が楽しいからね。さ、上がって上がって」
翔は潤也に促されるまま、暖かな家に上がった。