第7章
過去、そして未来
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「えー、これ全部潤也が作ったのー?」
間延びした物言いで、杳が身を乗り出した。その目の前には、御馳走の乗った大皿ががテーブルの上に並べられていた。
昼の11時も回ったところでようやく起き出してきた杳は、おなかがすいたとキッチンへ顔を出したのだった。そこに奇麗に盛り付けされた御馳走に、目を輝かせている。そう言えば今日はクリスマスだった。
「うん。買ってきた方がおいしいかも知れないけだ」
苦笑しながら照れ隠しに言う潤也を、杳は尊敬の眼差しで見上げる。
「潤也ってすごいよね。成績もトップだし、スポーツも体育祭でMVPだったって言うし、そのうえ料理も得意だし。ヒロも少しは見習えばいいのに」
横から手を出して摘まもうとする寛也の手を叩いて、潤也は笑顔を浮かべる。
「ありがとう。じゃあ、ヒロから僕に乗り換える?」
「は?」
キョトンとする杳に、潤也は笑顔を崩さず教える。
「だってヒロは昨日、杳は自分のものだから手を出すなって、すごい見幕だったけど?」
「ええーっ!?」
杳は寛也をギロリと睨む。やばいと思って逃げようとする寛也に、杳はまくし立てる。
「何でそういつもいつも勝手なこと言ってんだよ。まだ付き合うって言ってもないのに、恋人気取り…って言うか、オレを物扱い? オレより成績、下なくせして、ちょっと生意気じゃないっ? 身のほどをわきまえろよっ」
元気になった途端これかと、寛也はガックリと肩の力が抜ける気がした。まるで別人のように、昨夜の可愛らしさが嘘のようだった。
「分かった、分かったから、朝っぱらからそんなに怒鳴るな」
「もう11時だけど…」
潤也のツッコミは、杳にも寛也にも無視された。
「ヒロってば、最近すごくエラソーだよ。そんな奴になんか、もう何もあげない」
言って、プイッとそっぽを向く。その言葉に寛也はハッとする。
「何もって…何かくれるつもりだったのか?」
杳の手を取ろうとして、思いっきり振り払われた。そしてジロリと睨み上げられて、べーっと舌を出される。
「杳ぁ」
「ね、潤也、これいつ食べるの? もう食べていい?」
懐いてくる寛也を軽く払いのけ、杳は潤也にやんわりと笑みを向ける。寛也への当てつけだとは思ったものの、潤也は平静を装って返した。心なし、頬を染めながら。
「じゃあ、始めちゃおうか、クリスマス会」
「うんっ」
嬉しそうにうなずいて、杳は料理の乗った大皿を持ち上げる。居間まで持って行こうとして、ふと、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、僕出るよ」
潤也は、杳の持つ皿のものを摘まもうとして杳にけり飛ばされる寛也を笑いながら、玄関へ行ってドアを開けた。
「はい、どちら様…」