第7章
過去、そして未来
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「そう…だったな」
苦笑いを浮かべる寛也は、杳を放す。その代わり、両手でその頬を挟み込んだ。
「だけど、何かあったら俺を呼べよ。絶対に助けるから。お前のこと、全力で守るから」
「うん」
微かに笑んでくる杳に、寛也はそっと口づけようとして――。
背後から咳払いが聞こえた。はっとして振り返ったそこに、いつからいたものか、潤也が腕組みして、難しい顔を向けて立っていた。
「どうでもいいんだけど、そう言うのは人のいない所でやってくれる?」
「おま…お前、いつから…」
「さぁてね」
慌てる寛也を尻目に、潤也は杳の顔を覗き込んで、額に手を当てる。
「熱はないみたいだね。お風呂、入る?」
寛也に話しかけるのとは段違いなくらい優しく聞く潤也に、杳はふわりと笑ってみせる。
「ありがと、潤也」
言われて耳まで真っ赤にしているのだから、潤也だとて自分と大差ないと思う寛也だった。
それにしても、何となく直感してしまった。何だか今までになかった色香を匂わせるようになったと。これまではただ奇麗で清純な雰囲気を持っていたのに、ゾクリとする程のものを感じるのだ。
「あ…あの…一人で大丈夫? 僕が一緒に入ってあげようか?」
真っ赤な顔をして言う潤也は、寛也からすれば明らかに不審者に見えた。
「何言ってんだ、お前は。杳、入るんだったら俺が背中流してやるから、俺と一緒に…」
「ヒロ、それ、下心みえみえ」
「お前だって同じだろ」
兄弟喧嘩を始めた二人から、杳はそっと後ずさる。
「いいよ。オレ、一人で入れるから。誰かと入りたいんなら、二人で入れば?」
「「何でこいつとーっ?」」
異口同音で叫ぶ双子に、杳は肩をすくめる。
「仲いいよね、二人って」
見当外れなことを言って立ち上がる杳は、結局ふらついてしまって、寛也に抱え上げられて風呂場まで行くことになった。
その後は、とても丁重とは程遠い断り方をされて、脱衣場から追い出された寛也と潤也だった。
* * *