第7章
過去、そして未来
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「それ、どこ?」

 潤也は自分の部屋に駆け込み、上着だけをつかんですぐに戻ってきた。

「どこって…」
「待ち合わせの場所だよ」
「え…駅前の広場。…って、もういねぇよ。外、雪も降ってるし」

 窓の外は、先程よりも激しさを増したように見える。しかし、潤也は簡単に否定する。

「そうじゃなかったらどうするの? 杳の交友関係は極端の狭いんだよ。ヒロとの予定がキャンセルされて、すぐに他を見つけられる可能性は低いよ。それなのに家に帰ってないみたいなんだ」
「え?」

 潤也にそこまで言われてから、寛也は事の大きさに気づいた。

 すぐに受話器を手に取る。素早くかけるのは、杳の持つ携帯番号だった。しかし、受話器から流れ出た音声は、不通の知らせだった。

「電源、切ってるんだね、きっと」

 舌打ちする寛也に、潤也が冷静に言った。

「あいつ、まさか…」

 杳は勘が良い。今朝の電話から、寛也の態度の変貌に気づいたのかも知れない。悟られないように言ったつもりなのに。あっさり引き下がったのは、やはりそのことに気づいたからなのだろう。そうだとしたら――。

「俺、行ってくる。これ貸せよ」

 自分の部屋にジャンパーを取りに入る時間すら惜しく思えた。寛也は潤也の上着を奪い取ると、そのまま玄関から飛び出した。

 外はボタ雪をはらんだ横風が吹きすさんでいた。

 駅まで自転車で飛ばせば10分程だ。が、外へ出て寛也はそれがかなり難しいことを知る。

 瀬戸内の温暖な気候にあっては、積雪は珍しい。あったとしても町中で積雪を記録するのは2−3年に一度、5cm程度のものだった。なので、雪にはまったく不慣れだった。

「仕方ねぇ」

 幸いにも雪のお陰で視界は悪いし、外を出歩く人も少ない。見られることもないだろうと、寛也は赤玉を取り出した。

 窓から見下ろしていた潤也が、それを見て大きくため息をついたことも知らずに。


   * * *


 イヴの夕方だと言うのに、駅前広場には人一人見当たらなかった。

 ここにいなければ、きっとどこか雪の振らない温かな場所にいる可能性が高いから、それだけでも安心できる。そう、思っていたのに。

「何で…いるんだよ…」

 広場の中に立つ女神の像の周囲に点在する石のひとつに腰掛けて、ぼんやりしている姿が見えた。一体、何時間そこにそうしていたのだろうか。

「杳っ」

 名を呼んで、走り寄る。

「お前、何で…」


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