第7章
過去、そして未来
-2-
5/14
「それ、どこ?」
潤也は自分の部屋に駆け込み、上着だけをつかんですぐに戻ってきた。
「どこって…」
「待ち合わせの場所だよ」
「え…駅前の広場。…って、もういねぇよ。外、雪も降ってるし」
窓の外は、先程よりも激しさを増したように見える。しかし、潤也は簡単に否定する。
「そうじゃなかったらどうするの? 杳の交友関係は極端の狭いんだよ。ヒロとの予定がキャンセルされて、すぐに他を見つけられる可能性は低いよ。それなのに家に帰ってないみたいなんだ」
「え?」
潤也にそこまで言われてから、寛也は事の大きさに気づいた。
すぐに受話器を手に取る。素早くかけるのは、杳の持つ携帯番号だった。しかし、受話器から流れ出た音声は、不通の知らせだった。
「電源、切ってるんだね、きっと」
舌打ちする寛也に、潤也が冷静に言った。
「あいつ、まさか…」
杳は勘が良い。今朝の電話から、寛也の態度の変貌に気づいたのかも知れない。悟られないように言ったつもりなのに。あっさり引き下がったのは、やはりそのことに気づいたからなのだろう。そうだとしたら――。
「俺、行ってくる。これ貸せよ」
自分の部屋にジャンパーを取りに入る時間すら惜しく思えた。寛也は潤也の上着を奪い取ると、そのまま玄関から飛び出した。
外はボタ雪をはらんだ横風が吹きすさんでいた。
駅まで自転車で飛ばせば10分程だ。が、外へ出て寛也はそれがかなり難しいことを知る。
瀬戸内の温暖な気候にあっては、積雪は珍しい。あったとしても町中で積雪を記録するのは2−3年に一度、5cm程度のものだった。なので、雪にはまったく不慣れだった。
「仕方ねぇ」
幸いにも雪のお陰で視界は悪いし、外を出歩く人も少ない。見られることもないだろうと、寛也は赤玉を取り出した。
窓から見下ろしていた潤也が、それを見て大きくため息をついたことも知らずに。
* * *
イヴの夕方だと言うのに、駅前広場には人一人見当たらなかった。
ここにいなければ、きっとどこか雪の振らない温かな場所にいる可能性が高いから、それだけでも安心できる。そう、思っていたのに。
「何で…いるんだよ…」
広場の中に立つ女神の像の周囲に点在する石のひとつに腰掛けて、ぼんやりしている姿が見えた。一体、何時間そこにそうしていたのだろうか。
「杳っ」
名を呼んで、走り寄る。
「お前、何で…」