第7章
過去、そして未来
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それが、杳の望みならば、自分はどうするべきなのか。逃げることが本当に杳の為になることなのか。図々しくても、資格がないと思っていても、それでも杳は――。
「俺、杳に会ってくる。会って、聞かねぇと…」
つぶやくように言って、立ち上がる。そして潤也に向き直って。
「俺、どうかしてた。やっぱ、杳のこと、諦めねぇ」
やっと分かったのかと大きくため息をついて、潤也はこの馬鹿な兄とも弟とも呼べる存在を見やる。成竜になったと言うのに、本当にいつまでたっても雛のままだと。それが炎竜であり、寛也であるのかも知れない。
うなずいて、潤也はゆっくりと結界を解いていった。
広い大地が目の前から消えていくとともに、現れてくる見慣れた風景。温度調節のされていたと思われる場所からの移動に、一気に肌寒さを感じる。おまけに、いつの間にか大粒の雪が舞っていた。寒い筈だ。
「取り敢えず戻ろうか。その服も着替えた方がいいよ」
竜体で応戦していた筈なのに、寛也のセーターは泥だらけで、所々破れていた。
それをやった潤也は苦笑しながら、軽く言い放った。
「新しいセーターはヒロのお小遣いで買いなよね」
こいつは杳以外には容赦ないなと、寛也は本心で思った。
* * *
家に入ると電話が鳴り続けていた。
「はいはい、はいはい」
慌てて駆けていって、受話器を取るのは潤也。
「はい、結崎です」
思いっきりよそ行きの声で出たら、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
『杳兄さん、そっちに行ってませんか?』
「翔くん…?」
慌てた風の翔の声に、潤也は少し首を傾げる。
「何かあったの?」
『あ…いえ、べつに。ちょっと用事があって捜してるだけです』
途端に口調がいつものものに戻る。何か隠しているのが丸分かりだった。
『いないんでしたら、いいです。すみません』
そう言って電話を切ろうとするのを、潤也は止める。
「携帯、つながらないの? 持って出てるんじゃないの?」
『いえ、いいんです。じゃあ』
そのまま切られた。何だか慌てて捜しているようにも思えたのだが、その割には協力してくれと言ってこないことが気になった。
「ねぇヒロ、さっき杳から電話、あったよね?」
さっきと言っても異空間結界で結構時間を使っていたようなので、今は時計の針は既に夕刻を差していた。
「ああ…」
「今日、本当は何か約束してたんじゃないの?」
潤也の言葉に、寛也の動きが止まる。こっちも、まる分かりだった。
「ああ…でも、もう…」
寛也は時計に目を向ける。待ち合わせは10時だった。あれから何時間もたっているし、用事があるからと言って切ったのだ。待っている訳がない。