第7章
過去、そして未来
-2-
2/14
「杳、何だって?」
部屋へ戻ろうとしたところで、潤也に呼び止められた。ギクリとして振り返る。
「あ…いや…別に…」
適当な言い訳すら思い浮かばなかった。そんな寛也の様子に潤也が気づかない訳がなかった。
「約束してたんじゃないの? 今日、イヴだし」
「な、何でイヴが関係あるんだ? 俺、別に杳とは…」
振られたことくらい知っている筈なのに、何故当然のように聞くのか。
はっきりしない口調の寛也に、何を感づいたのか潤也はキッチンから出てくる。
「ふーん、そうなんだ?」
意味ありげな口調に顔を向けると、潤也は寛也をじっと見ていて、思わず目を逸らしてしまった。
「じゃあ僕が誘おうかな。杳、暇してるかなぁ」
その言葉に振り返ると、潤也はまだ変わらないままの表情を向けていた。寛也の思っていることなど全て見透かしているかのような表情で。
「ヒロ、もう杳のことは諦めるんだったよね? じゃあ僕が本気になっても良いわけだ?」
「な…」
「杳はもらうから」
思わず止めようと伸ばした手を叩かれた。
「何度も同じことを言わせないでよ。いい加減、ヒロのヘタレっぷりにはうんざりする」
言われて、ギクリとする。優柔不断で踏ん切りの付かない行動ばかりだと、自分でも思っていた。杳に対してはいつもそうだ。だが、だからと言って、どうすれば良いと言うのか。自分は杳の側にいられる者ではないのだと知った今。
うつむく寛也に、ピシャリと言い放つ潤也。
「杳はヒロのことが好きなんだ。それをヒロは裏切るんだね?」
顔を上げる寛也に、まだ睨んでいた潤也はプイッと顔を背ける。
「また同じことを繰り返すつもりなんだ? 綺羅の時と同じように」
「ちが…」
「違わないだろっ」
「だって、杳は…綺羅は俺のこと、許さない…」
言った途端、頬に熱い痛みが走った。平手を打たれたのだと気づいて驚く寛也に、潤也は逆の頬にも平手を打ちすえる。
思いっきりの痛みに、さすがによろけた。
「おま…何すんだ…」
両頬を抑えて後ずさる寛也。
「表に出なよ。その根性、たたき直してやるから」
寛也を睨み据える潤也の目に、白い風の渦巻くのが見えた。本能的に背筋が寒くなった。
* * *