第7章
過去、そして未来
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こんな言い方は卑怯だと分かっていた。
だが、同じようにまた失ってしまうのだとしたら、その時までは自分の腕の中に居続けて欲しい。他の者の腕に抱かれて生き続けるのを見続けるよりも、いっそのこと――。
「前に、あみやの代わりになってくれるって…言ったよね?」
「…え?」
忘れていたのだろうか、杳は少しキョトンとした顔をして、しかしすぐに目を逸らした。
なかったことになんか、絶対にしてあげない――そう、咄嗟に思った。
「杳…」
逸らされた顔に、唇を重ねる。
「翔くん…っ」
慌てて身を引こうとするのを、そのままベッドの上へと押し倒した。その肩を押さえ付けたまま、見下ろす先に、驚いたように目を見張る杳の顔があった。
「どう…したの、翔くん?」
その目を見つめたまま、唇を落とした。
きっと明日、あいつと会えばこれくらいのことはするつもりなのだろう。させない。許さない。
誰にも、渡さない。
「ん…やめ…」
逃げようとする唇を捕らえて、深く口づける。柔らかな唇の隙間に舌を差し込んで、顎を取る。
強引に開かせた口中に舌を滑り込ませて、蹂躙していく。
逃げ惑う杳の舌を捕まえて、自らの舌を絡み付かせて。
飲み下せなかった唾液が、二人の口の端からこぼれて、杳の白い首筋を伝っていった。
すぐに抵抗することを諦めた杳から、翔はわずかに唇を離す。
「君は僕のものだよ。昔も今も、ずっとこの先も」
深い色をした瞳が閉じられる。そのまぶたに口づけを落とす。
「愛してる…杳…」
囁いて、もう一度口づけた。
白くすべらかな肌は、まだ誰の侵入もを許さない閉ざされた中庭に積もる白雪の様で、その上に一つずつ赤い花弁を散らしていく。
身長はまだ追いつけないでいるのに、その身体は翔よりもずっと華奢で、弱々しく思えた。
このまま失われていくだけの生命をくい止める術は自分にはないが、それまでの間、ずっと抱き締めていたい。
また、長い時間を失われた心のままで過ごす恐怖と、今度こそ取り戻すことはできないかも知れないと言う絶望を両手に抱えて、その身体を抱き締めた。
幾千年の思いと、数え切れない長い時を思って。