第7章
過去、そして未来
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「いっぺんに食べたらダメだよ。おなか壊すから」
「また子ども扱いして。僕だってこんなに甘い物ばっかり食べないよ」
「えー、要らないんだ…?」
目を丸くして翔を見やる杳は、翔のことを一体幾つの子どもだと思っているのだろうか。本当はこんな、誰からもらったか分からないようなものより、たった一人の人のくれるものが欲しかったのに。
「それなら、誰か他の人に…」
言いながらまた小袋をかき集めて抱えようとする杳。その手を翔はあわてて止めた。
「いい、大丈夫。少しずつ食べるから」
下手な相手に杳の手から渡されて、勘違いされても困る。そうでなくとも世の中にはやっかいな連中も多いと言うのに。
「ふーん。じゃあ、あげる」
言って、また小袋を手放した。
「でも何だってこんなにもらったりしたの? 食べないのに」
翔は仕方ないとばかりに、一つずつ袋を重ねて机の上を片付ける。このままでは勉強もできない。
その横で杳は呑気に、翔のベッドの上にポンと勢いづけて座り込んだ。
「うーん、何でかな。要らないって言おうとしたら、みんな勝手にオレの机の上に置いて逃げて行っくんだ。…もう誰からもらったのか分かんないし」
ほとほと力の抜ける人だと思った。
多分、渡したくてもモタモタしている人にはそっけなく言えるんだろうが、押し切られるのは苦手なのだ、この人は。人付き合いが上手ではないのだと思う。
そんな所も、翔からすれば可愛いと思える部分ではあるのだが。
「それより杳兄さん」
「ん?」
翔は片付け終わってから、杳を振り返る。
今日はひどくご機嫌が良いようで、杳は笑顔を向けてきた。その理由が何なのか分かっているからこそ、抑えられない嫉妬心。
どうしてこんな奇麗な子に生まれ変わってしまったのかと思う。もっと普通で目立たない子であったなら、外見だけに引かれている者の誰も近づくことはなく、自分だけの人でいてくれただろうに。
それなのに、杳はそこにいるだけでひどく目立つのだ。
ああと、思い出す。
あみやも人目を引く娘だったと。その容姿とともにあった、澄んだ色のオーラ。性別を問わず、彼女は可愛がられ、慕われていた。
それはまるで、純真なままで育った綺羅の魂そのもののようだった。
翔はベッドに座る杳を見下ろす位置に立って、その肩に手を置く。
いつにないその翔の行動に、杳は少し首を傾げるが、疑う色もなく見上げてきた。