第7章
過去、そして未来
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何であんなことを言ってしまったのだろうか。
大人気ないと思いながらも、それでも、もうこれ以上見ていることができなかった。
傷ついて死んでいった綺羅も、あみやも、本当に慰められる術は自分にはなく、それでも自分の腕の中に縛りつけていたかった。
いつか、その魂のすべてまでもを手に入れたくて。
あらゆる物を生みだし、あらゆる物を滅しめす神とまで言われる自分の、本当に何と浅ましく愚かしいことか。それが分かっていて、それでも尚求めてやまない、小さな小さな魂の存在。
誰にも渡したくなかった。
ぎゅっと握り締めた両手の拳を見下ろしてそう心に決めた時、ドアをノックする音がした。
はっとして顔を上げると、杳の声がした。
「翔くん、ちょっといーい?」
何も知らず杳は翔の側にいて、翔の身の内にある醜さなど思い至りもしないのだろう。あみやであった記憶や、綺羅であった記憶があるとはとても思えず、竜として覚醒する前と変わらない態度で接してくれる。
翔は立ち上がってドアのノブを引いた。そこに、パジャマ姿の杳が立っていた。
まだ少し髪が濡れているのは風呂上がりだからだろう。
そして、その手には山のように沢山の小袋が積み上げられていた。
「どうしたの、それ」
そう言えば明日はクリスマス・イヴ。明日から冬休みなので、今日渡されたのだろうか。
「ん。もらったんだけど、オレ、要らないから翔くん食べて」
「って言っても…」
両手に山盛りである。ピンクや赤色の可愛らしいラッピングにリボンからして、多分女の子からだろう。
杳はそれを翔の勉強机の上に無造作に広げた。
「こんなにもらったの?」
「まだあるんだけど…」
この言葉に翔はガックリと力が抜けそうになる。
秋の学校祭以来、杳の人気にはすごいものがあった。
いや、元々、ファンクラブも幾つかあって、それなりに注目を集めていたのだろうが、それがミスコンテストと言う派手なイベントが火付け役となって、瞬く間に校内一のアイドルになってしまっていた。
それを本人が気にもかけていない所があって、そのことが却って、熱を煽っていた。
翔なんて従弟で一緒に暮らしていると言うだけで、持てはやされたり、妬まれて陰で意地悪されたりもした。もちろん、そんな輩は三倍返しで、尚且つさらし者にしてやったのだが。