第7章
過去、そして未来
-1-
6/12
「何の用だよ? 俺、これから部活なんだけど」
人気のない校舎裏に連れて来られて、寛也は不機嫌そうに言った。どうせ先程の杳とのやり取りを聞いていて、嫉妬しているか何かだと思った。今更翔が割り込めるものではなかろうと思うものの、寛也としても確たる自信はなかったので、余り話し合いはしたくなかったのだ。
「戦は気づいてないので、教えてあげようと思ってね」
『戦』と呼ばれて、途端に自分の方が目下のような気がしてくるのは、昔の記憶が原因だった。翔もそれを分かっていて、自分が立場的に上位に立ちたい時は、敢えてこの名を呼んでくる。おまけにいつもと口調が違う。だから、嫌な予感がした。
「別にお前に教えてもらわなきゃ困るようなことなんてないぜ」
そう言って背を向ける。逃げる方が良いと、直感が告げていた。その寛也の背にかけられる翔の声。
「綺羅のことだけど?」
その名に、ビクリと身体が震えるのを覚えた。
自分の竜としての記憶のその先にいつもいる、小さな少女の姿が目に浮かぶ。幼い時からずっと側にいた少女。寛也の前世である戦のたった一人の妹。その命が尽きて、もう幾千の年月が流れたことか。
立ち止まる寛也の前へ、ゆっくり回り込んでくる翔。見上げてくる瞳は、寛也を敵視するような色が明かに浮かんでいた。
「綺羅が現世に転生していると言っても、知りたくない?」
思ってもみなかった翔の言葉に、寛也は息を呑む。
「ウソ…だろ?」
そんな偶然は有り得ない。自分達と違って、人間はそうそう転生をすることはないのだ。ごく稀にあったとしても、綺羅は一度、竜王の宮の巫女として生まれ変わっている。
「あみやを覚えている? 彼女は勾玉を持つ巫女達の中では突出した力を持っていた。竜を封じる力も、姿を現すことのなかった我々の姿を、見極める力もあった。これは綺羅の力だ」
そう。だから、綺羅としての記憶も何も持たなくても、誰もがそれと気づいていた。寛也である戦も。だから自分は――。