第7章
過去、そして未来
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「ダメ?」
嬉しさの余り、いや、過去の辛さを思い出す余り、うっかり返答をすることを忘れてしまっていた寛也。少し眉をひそめて見上げてくる杳に気づいて、慌てて返す。
「ヒマヒマ。全然OK。っつか、何かあっても蹴散らすから」
早口でまくし立てる寛也に、杳はまたくすくす笑い出す。
「ヒロがもてないの、分かるような気がする」
「どーいう意味だよ?」
答えずに、杳はただ笑っているだけで、そんな杳の無邪気そうな笑顔に、まあいいかと思ってしまう寛也だった。
今になって気づくが、先程まで機嫌が悪かったのは、妬いていたからなのだろうか。寛也が自分と同じようにプレゼントをもらったものと思って。それだったら嬉しいのに。
寛也自身、本当は人気も決して低くはないのだが、寛也の思い人が杳であることはかなり広く知れ渡っているうえに、相手の杳に特定の恋人がいない様子で、尚且つ仲が良いようなので、プレゼントすら渡せないでいる女生徒が多かったのだ。
また、単純な寛也だけに、見るからに杳以外は眼中にない様子が分かるから、諦めている子も多かったのだ。
「じゃ、明日。どこ行く?」
「そーだなぁ」
真冬に遊園地は寒かろう。どちらかと言うと屋内がいい。見たい映画があっただろうか。ゲームセンターはこの前みたいに自分が夢中になり過ぎて、杳を置いてきぼりにしかねない。
「ね。ボウリングしたことある?」
杳がふと思いついたように聞いてきた。近くの、自転車で行ける距離に一店あった筈だった。
「お前、できるのか?」
「ううん。やったことないから行ってみよう。ね?」
期待を込めた顔でこんなふうに言われたのでは、寛也に否の言葉など言える筈もなかった。気づいたら、二つ返事でOKしていた。
待ち合わせは駅前に決めた。下手にどちらかの家にして、潤也や翔に邪魔されるのも嫌だからと杳が言ったので。そのことがものすごく嬉しかった。杳も寛也との二人だけの時間を持ちたいと思ってくれているのだと分かって。
「じゃあね、ヒロ。寝坊しないでよ」
そう言って杳は帰っていく。自分のことを棚に上げてと思いながらも、寛也は浮かれる気持ちを抑えられなかった。
よくよく考えれば、クリスマス・イヴのデートなのだ。それを杳から誘ってきて、一日中、杳を独り占めできるのだ。上手くすれば、朝まで二人っきりなんてことになるかも知れない。
緩む顔が抑えられなかった。
杳の姿が角を曲がって見えなくなるまで見送って、寛也はようやく部活に向かおうと方向転換した。
そこに、いつの間に来ていたのか。
「少し、お話してもいいですか?」
挑むような表情を向けた翔が立っていた。
* * *