第6章
羽化
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「何言ってんの? あんた、バカじゃない?」

 週開けの月曜日。

 登校すると玄関口でそんな声が聞こえた。杳のものだと分かって、潤也と二人で顔を見合わせて、寛也は声のする方向へ向かった。

 そこに、佐渡に拝まれている杳がいた。

「何やってんだ?」

 声をかけると、佐渡は慌てて手を下ろした。

「べ、別に」
「あのねー、こいつが封印を解けって」

 杳はそう言いながら寛也の元へ駆け寄る。そして佐渡から身を隠すように寛也の背に隠れて、舌を出して見せた。そんな子どもじみた杳の態度に苦笑を向けてから、潤也は佐渡に向く。

「少なくとも封じている間は大人しくしてくれるだろうから。現世はそれで我慢したら?」
「ふざけるなっ。第一、ここに俺がいることは父竜も知ってんだ。その俺の気配が消えたと知ったら、調査に来るぜ」

 ぞっとするようなことを言う佐渡に、慌て出すのは寛也。

「やっぱ、現世にいるんだ。父竜は」
「いねぇとでも思ってたのかよ?」
「偉そうに」

 ボソリと言ったのは潤也。その声が聞こえたのか、ギョッとする佐渡にゆっくり近づいて行く。

「心配しなくても気配くらい、ちゃんと残ってるよ。力を封印されて自分で消せなくなった分、もうハッキリとありありで。で、どこに住んでるのさ、父竜は?」

 低い声で聞く潤也から、杳が身を引くのが分かった。それを見て今度は寛也が苦笑する。

「聞いてどうするんだ?」
「先手必勝って知ってる? 奴の寝込みを襲って、叩き潰すんだよ」

 潤也だったら――否、凪だったら、本気でやりかねない。しかし、佐渡はそれを鼻で笑う。

「お前、勝てるとでも思ってるのかよ? 天竜王が十匹いたって敵わねぇんだぜ」
「人を犬みたいに言わないでくれます?」

 背後から声が聞こえた。振り返ると、翔が立っていた。

 朝っぱらから校舎の玄関口で騒いでいれば目立ちもする。どこかから聞き付けたのだろう。
「…って、お前、まさか…」

 さすがに佐渡も翔の言葉の意味に気づいて、一歩下がる。

「まさかって…期待してくれてたんじゃないですか? 僕の出現」

 するかよと小さく言った佐渡の言葉は、翔に軽く無視された。

「チビチビって言われてますけどね、竜体は僕が一番大きいんです。青雀さん」

 佐渡はそう言った翔と、潤也と寛也を順番に見やって、突然に笑い出した。

「ばっかみてぇ。俺が勝てる訳、ねぇじゃん」

 言って、佐渡はくるりと背を向ける。


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