第6章
羽化
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「おいっ」
慌てて呼び止める寛也に、目だけを向ける。
「俺が動けないと知ったら、ヤツの使いが来るぜ」
「使いって…」
「朱雀。まあ、あいつも今は別を追ってるようだけどな。どっちにしても、このメンツじゃ、恐るるに足らずって所だな。お前らが昔の力をそのまま使えるんだとしたらな」
炎竜の力の程は知らないがと、付け加えて。
そのとき、予鈴が鳴った。
「まずいっ」
まだ下足履きのままの寛也と潤也は、慌てて下駄箱に向かって駆け出した。それを見送って、佐渡は何を思ったのか、また杳に近づいて腕を取る。
「じゃ、今日からは普通に同級生しようぜ」
それを叩き落とす杳。
「ばっかじゃん。一人でやってろよ」
言って、杳も玄関口へ向かう。それを面白いものでも見るように見やっている佐渡。その背に、翔が声をかけてきた。
「分かっているんでしょうね。杳兄さんに何かしたら…」
「おおっと」
気を膨らませる翔から、一歩下がる。
「しねぇ、しねぇ。言っただろ。俺、杳に惚れてんだから」
「そっちの意味じゃないですよ」
襲うという行為も二種類あると言われて、佐渡は首を竦める。
「ハイハイ、分かったよ」
おどけたように言って、自分も杳の後を追いかけようとする。が、ふと立ち止まって、翔を振り返った。そこに立つ少年は佐渡をきつく睨んだままだった。その姿に、昔の半分程にも恐怖を感じないことを確かめる。
「お前ら、負けるぜ」
それだけ言って、駆け出した。
翔はそれを忌ま忌ましそうに見送ってから、天に手をかざした。
その手に浮かぶ痩身の剣は、半身を失ったままだった。