第6章
羽化
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「ん、もうっ。どうしてくれるのさ、この惨状!」

 寛也の首根っこを引っ掴むようにして帰ってきた潤也は、大破した部屋に寛也を突き飛ばして、仁王立ちだった。

 咄嗟のことに慌てて結界を張って外部からの干渉を遮断したが、このアパートに住む住人達はそうもいかない。仕方なく全員に術をかけて、明日の朝、目覚めた時にはすべて忘れているように仕向けた。先ず、そのことにかなりの労力を使った。そして、肝心の寛也の部屋である。

 寛也は瓦礫をかき分けて、潤也に言われるまま正座をさせられた。

「だってよー、いきなりだったんで、ビックリしたんだって」
「だってもへったくれもないっ。大体ね、普段から素行が悪いから、いざって時にその性格が出ちゃうんだよ。これ、全部、ヒロの所為だからねっ」

 潤也はそう怒鳴って、部屋の中を見渡す。からっ風の吹き抜けるそこは寒いだろうからと、杳は隣の潤也の部屋へ移動させた。と言っても、潤也の部屋も先程の振動で机や棚の上のものが散乱したままだった。

「面目ない…」

 弟の見幕に、寛也はしょんぼりと首を垂れる。しおらしくなった寛也に、潤也はため息ひとつついて許してやろうとする自分の甘さを呪った。

「やっぱり、校舎を壊したの、お前らだろ?」

 それまで黙っていた佐渡が口を挟む。それをジロリと睨む潤也。

「僕は関係ない。壊したのはこのバカだよ」

 ひどい言い様ではあるが、事実な為に寛也は反論できなかった。

「まったく、とんだ暴れん坊だよ、戦は」

 最後にもう一度毒づいて、潤也は足元に転がっている瓦礫の破片を手に取った。

「僕も攻撃系だから、余り得意じゃないんだけどね」

 そう言ってから呟く呪文。

 ひとつずつ、ひとつずつ瓦礫が元の場所に戻り、修復されていく。

 自分の張った結界の中の異空間でなら、建物を造ることも修復することも容易だった。しかし、この世界の物質は硬くて不安定だったので、苦手だった。それでも術の使えない寛也にこれ以上どうすることもできない。実際問題、不可能だと知っていた。

 その昔、暴れて山ひとつ壊してしまった炎竜にお仕置きしたのも自分だし、元に戻してやったのも自分だった。天人も地人も、我関せずで知らん顔ばかりだったので、こう言う役目はすべて自分に回ってきていた。生まれ変わっても、それは変わらないのだろうか。

 その上、たちの悪いことに、今生でも兄弟ときた。しかも戦の方が兄などと、何かの間違いだと叫びたかった。

 裕に1時間かけて、かけらのひとつまでも余すことなく積み上げて何とか元に戻した時には、神経疲労で倒れそうだった。

 腹の立つことこの上なくて、正座しっぱなしで痺れが切れた寛也の足を、散々に蹴ってやった。


   * * *



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