第6章
羽化
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 何が悲しくてこんな奴と呑気にお茶をすすりながらお笑い番組なんて見ているんだろうかと、潤也は座卓の正面に座ってつまらなそうにテレビを見ている佐渡に目を向けた。

「もう帰れば?」

 外はとっくに日が暮れている。明日が日曜日とは言え、そろそろ帰っても良い時間だと思う。それとも佐渡は寛也が羽化するのを見届けたいのだろうか。まさかと、潤也は佐渡から目を逸らして、テレビ画面へ目を向けた。

 その時。

 ドンッ、ガラガラガッシャーンッ!

 あらぬ方向から激しい振動とともに、爆音が聞こえた。思わず立ち上がり、襖を開けて、二人は廊下に飛び出した。まだガラガラと音を立てるのは、明らかに寛也の部屋だった。その部屋で何が行われる筈だったのか考えて一瞬躊躇する潤也より先に、佐渡がドアを開けた。

 そこに、屋外の景色が広がっていた。ドアの正面にあった壁が、窓ごと消滅していたのだった。いや、消滅ではなく大破だった。

 部屋の中は瓦礫が散乱して埃と塵まみれだった。その中で、ベッドに上体を起こして呆然とする杳がいた。

「どうしたの?」

 潤也は慌てて杳に駆け寄り、埃を被った頭をふるってやる。その手の動きに我に帰った杳は、ブルブルと頭を振る。

「ひど…口の中、土が…」

 近くにあったボックスティッシュを取ってあげようとしたが、それも埃まみれだった。

「大丈夫? 一体何があったの?」

 聞く潤也に、杳は大破した壁の方向を指さした。そちらへ目を向けて、潤也はガックリと肩を落とした。

「あのバカ…」

 そこに、炎竜が舞っていた。辺り一帯に炎を撒き散らしながら。火事にでもなったらどうするのか。いや、その前に、この壁をどうしてくれようか。

 自分が羽化した時はもっと静かに、ゆるやかな風に流されるように皮が溶けたと言うのに。これでは覚醒した時と同じではないか。余りにも乱暴過ぎる。

 幸いにも杳は無事だったが、何かあったらどうするつもりだったのか。

 潤也は腹立たしげに立ち上がると、佐渡を振り返る。

「杳に何かしたら、ただじゃおかないからね」

 潤也の形相に、佐渡は一歩引いて、小刻みにうなずく。封じられた状態の自分なので、竜の力を使われたら勝ち目はない。ましてや、潤也の風竜は――。

 潤也は手のひらに出現した白い珠玉を握り締めた。

 風が沸き起こり、埃だらけの部屋に霞みをかける。

 途端、風が舞った。

 埃を含んだ風の中、白い巨体が弧を描いて宙へ舞い上がった。かと思うと、その身は疾風のごとく駆け出した。その先は、天空でほしいままに暴れている炎竜だった。

『目を覚ませっ、大馬鹿者がーっ!』

 風に混じって、怒声が聞こえた。

 炎を吹き消す程の風とはどれ程の威力を持つのだろうか。佐渡が呟くように言って振り向くと、杳は二人のことなど忘れてしまったかのように、ぺっぺと何度も唾を吐き出していた。そちらの方が気になるようだった。


   * * *



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