第6章
羽化
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狭いシングルベッドの上で身を寄せ合って、どれくらい時間が経っただろうか。
杳の肩を抱いて、自分でも不思議なくらい心が静まったのを感じていた。どうすれば良いものか分からないで堂々巡りをしていた気持ちが、スッキリ晴れたようだった。
「ヒロ…」
すっかり眠ってしまったと思っていた杳が、腕の中でわずかに身じろぎをした。寝起きの悪い杳のこと、寝ぼけているのかと思って目を向けると、半ば目を開けていた。
「起きたのか?」
小さな声で聞くと、ゆっくり視線を向けてきた。少し頬を染めているように見えた。その杳を抱き締める。華奢な身体は思った以上に柔らかくて、何か良い匂いがした。
結局、もう一歩先へは進めなかった。いや、敢えて進まなかった。他に何か別の方法があるのではないかと思われたのも事実だが、それよりももっと杳自身を大切にしたかった。
「ヒロ…あつい…」
抱き締めた腕の中で、杳が身じろぐ。腕の力を緩めると、杳は寛也から少し離れる。
「…杳?」
「ヒロ、湯気がたってる…」
呟くように言う杳は、まだ寝ぼけているように見えた。その杳をなだめるように、寛也は髪に指を絡めながら、頭を撫でる。
「もう少し寝てろ」
優しく言ったのに、杳は顔を上げて寛也を睨んできた。そして今度ははっきりとした口調で言う。
「ヒロの身体、湯気が立ってるんだってばっ」
言っている意味がまるっきり理解できなかった。
「湯気?」
寛也は身を起こし、自分の身体を検分する。しかしそこには何もなかった。
「熱いっ、あっち行ってっ」
言われると同時に、杳に突き飛ばされた。予期していなかったため、寛也はあっさりと床に転がった。床に置いていたゲームのパッケージが足元でくしゃりと音を立てる。
寛也は慌てて立ち上がり、杳を振り返る。
「何すんだよ。危ねぇだろっ」
叫んだ途端、身体の中を業火の炎が駆け抜けた。
「な…に…?」
それは身体の中心から沸き上がり、全身に伝わって皮膚の先端にまで達する。全身が燃えるように熱くなった。杳が熱いと言ったのはこれかと気づいて、それなら離れた方が良いと思った途端、全身が粉々になるような感覚に襲われた。
まずいと思って、寛也は窓に手をかける。
これは――この感覚には覚えがあった。初めて竜として目覚めた時と同じなのだ。
寛也は思いっきり窓を開いて、ベランダに出ようとした。その瞬間、炎の竜の姿が頭に浮かんだ。
* * *