第6章
羽化
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つと、杳の腕が伸ばされ、寛也の首に絡み付いたかと思うと、引き寄せられた。
抱き締めるように寛也の頭を抱く杳の腕の力は殆どなくて、どれ程、終局に近づいているのか、その時間が秒読みに入っているのが、はっきり分かる気がした。もしかすると、杳自身も気づいているのかも知れない。
寛也はそっと杳の腕を解いて、顔を上げる。てっきり泣いていると思っていた目はむしろ穏やかな色をたたえていた。それが尚一層、寛也の胸を締め付ける。
失いたくないのだ、この存在を。何としても何としても、助けたい。その為の方法が唯ひとつしかないのだとしたら。
寛也は杳の手を自分の両の手のひらに挟み込み、柔らかく握り締めた。
「杳、俺の頼み、聞いてくれるか?」
どんな顔をして言っているのか、自分でも分からなくなっている。その寛也を見上げたままの杳に告げる言葉。
「お前を抱きたいんだ。こんな時にって思うかも知れねぇけど、俺は…」
「いいよ」
寛也の言葉を遮って、あっさりと返された言葉は肯定だった。
「嫌だったら、ちゃんと言ってくれ。それで俺の気持ち、変わったりしねぇから」
「…うん」
目だけでうなずいて、杳は寛也の手を引き寄せる。
「ホントに、ホントにいいのか?」
思わず念押しする寛也に、杳は眉の根を寄せる。
「しつこいの、嫌いなんだけど?」
いつもの口調に、ほんの少しだけ安心する。
「分かった。もう聞かねぇ。でも途中でやめたくなったら、ちゃんと言ってくれ。寸前でもちゃんとやめてやるから」
真剣に言ったつもりだったのに、杳は小さく吹き出していた。
「寸前って…」
杳は笑うが、寛也は本気でそのつもりだった。
まだ笑う杳の頬を両手で挟み込む。
「俺、本気だから。お前のこと、一生、離すつもり、ねぇから」
「ちょっと、ウザい…」
呟く言葉ごと、塞ぐ唇。
少し身を引こうとするのは、もう癖のように分かってしまった。杳自身が寛也を拒絶しているのではないのだ。だから自分から逃げないようにと、寛也の首に腕を絡ませて、身を引き寄せてくる。