第6章
羽化
-3-

4/10


 再び座布団の上に座って、潤也は大きくため息をついた。

「とんだ末っ子の甘ちゃんだな」

 吐き捨てるように言う佐渡に視線も向けず返す潤也。

「下に綺羅がいるから、末っ子じゃないよ。あれでもちゃんと兄貴然とした所もあったんだ」
「綺羅ね…」

 思う所が多いのだろう。しか佐渡は何も言わず、気を紛らわせるように急須の茶を湯飲みに注ぐ。

「それに、ヒロも炎竜も元々あんなに耐えるタイプじゃないんだよ。言われたら即飛びつくくらいの直情型なんだけど。それなのに、杳に対してはかなり頑張ってる。大切なんだよ、本心から。誰にも負けないくらいにね」

 自分も佐渡も、多分、敵わない。それと同時に杳自身も――。

「なーんか、僕って毎度毎度損な役回りだよなぁ」

 それは初めて口にした愚痴。それを佐渡は軽く聞き流す。

「自ら買って出てんだろ、会長サン」

 その言葉に苦笑を浮かべる潤也。

「それよか、テレビつけていいか? 話し声、聞きたくねぇだろ?」

 だったらもう帰ればいいのにと思いながら、潤也はリモコンを佐渡に手渡した。


   * * *


 部屋に入ると、伝わってくる浅く早い呼吸。前にもこんなことがあったと思い出す。何も知らないまま、自分の力を杳に送って――。

 寛也はベッドに近づいて、そっと顔を覗き込む。赤味を失った白い顔は、人の生を感じさせない。その杳の頬に手を差し伸べると、わずかに瞼が開かれた。

「杳…?」

 名を呼ぶと2−3度瞬きをしてから、ぼんやりと寛也を見上げてきた。

「ここ…どこ…?」
「俺の部屋。悪いな、見苦しくて」

 言うと、杳はわずかに笑む。来る度に、足の踏み場もないと呆れられ、それでも片付かない部屋は今日も取り散らかったままだった。

「オレ、また倒れた?」
「ああ、いつものことだ。寝てたら、すぐ良くなる」
「うん」

 そう言いながら、寛也は杳の頬を撫でる。


<< 目次 >>