第6章
羽化
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何があっても、杳を敵陣になど運び込めるものかと、寛也と潤也は佐渡の家へ行くことだけは断固として反対した。
その代わりに、嫌々ながらも自分達の家へ佐渡を招待する羽目になってしまった。車を出してくれたのが佐渡のお抱え運転手であったからなのだが、本当にどこのご子息かと思ってしまう寛也と潤也だった。
アパートに着いて、床を敷こうとする寛也を潤也が止めた。
「ヒロのベッド、貸してあげて」
「え…だっていつも…」
杳が泊まりに来ることは多かった。体調が悪くて帰れなかったり、勉強を見てくれと週末にやってきたりするのだ。その時は、決まって居間に客用の布団を敷いていたのだった。しかも夜は兄弟で牽制し合って、お互いを居間へ近づけなかった。だから当然、今日もそうするのだと思っていたのだ。
「杳、ヒロの所の方が落ち着くみたいだから」
さらりとそう言って、顔を背ける潤也の心情を思いやる。弟と腕の中の杳とを交互に見やって、寛也はその厚意に甘えることにした。
「ごめんな、ジュン」
呟いて、自分の部屋へ入った。
昨日も天気が良かったので、久しぶりに潤也が布団を干してくれていた。そうでもなければ潤也も言わなかったかも知れないが。
寛也は朝起きたままでベッドメイクもしていない所へ、杳をそっと寝かせる。寝苦しいだろうからと、上着とセーターを脱がせて、ちょっとためらってからジーンズも脱がせた。余り目を向けないようにしながら、そっと掛け布団を掛けた。
ホッとしたのを見計らったように、潤也が部屋の外から声をかけてきた。
「ヒロ、ちょっと話があるんだけど?」
その真剣な声音に、寛也は杳のことが気になりつつも部屋を出た。
* * *