第6章
羽化
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 話を聞いて、翔は屋上の駐車場へ行こうと言った。

 そこから見れば、潤也の作った異空間の壁は、少し近づいて見えた。

 普通の人間には決して見えない空気のバリア。竜の巨体が動き回れる程度なので、はるかに続く開発区の上空を大きく取り囲んでいた。しかし見えるのはボールのような巨大な外壁だけで、中の様子は伺えなかった。

「スモーク、張ってやがる」

 寛也が呟く。多分、杳に邪魔をされたくないとともに、見られたくないのだろう。そう思って、隣に立って結界の壁を見つめる杳を見やる。ひどく心配そうな顔をしていて、少しだけ妬けた。

「大丈夫だよ。風竜は四天王のリーダーだから、賢く上手にやり過ごすよ」

 翔がそう言って杳の腕に触れてくるのを、杳は軽く払いのける。

「それって昔の話だろ。今も同じ強さとは限らないじゃない」

 そう、相手もそれは同じだった。昔と同じ強さではないかも知れないが、もっと強いかも知れない。言われると、寛也も心配になってきた。

 かつて天橋立で戦った時の潤也は自分よりもはるかに強くなっていて、聖輝は潤也が完全覚醒しているから強く――元の力を持つようになったのだと言った。だから多分、弱いということはないと思った。しかし、敵の強さは寛也には分からなかった。青雀と相まみえたことはなかったから。

「せめて中の様子が見えたらな…」

 そうすればこうして要らぬ想像をして心配することも少ないだろう。呟く寛也に、翔が声をかける。

「見たいんですか?」

 不思議そうな表情だった。翔はまるで心配している様子もなく、そう言う寛也と杳の方こそが腑に落ちないとでも思っているようだった。

「見えるのか?」
「遠視ができます」

 そう言って翔は両手を胸の前で合わせて、丸いボールを作るように広げていく。するとその手のひらの間に直系15cm程の硝子玉のような球体が現れた。その中に見えたもの。

「ジュン…」

 白い竜が泳いでいるのが見て取れた。どういう仕組みになっているのか寛也には皆目見当もつかないが、それはまるでハンドムービーを見るかのように、硝子玉の中に映し出されていた。

 そして、白竜の前に立ちはだかる蒼色の翼を持つものに、寛也はハッとする。学校祭の時に寛也が見た、あの巨大な鳥だった。

「あれが、青雀…」

 大きさは寛也の炎竜よりも一回り大きい風竜からすれば、かなり小さなものだったが、その尖ったクチバシと鋭い眼光は見る者を恐怖させた。

 ふと、杳が寛也に寄り添ってきた。不安そうな横顔を見せて。

「何で戦うの…」

 呟く声に、翔が何も言わず目を閉じるのが見えた。


   * * *



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