第6章
羽化
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「おっせぇな…」

 呟いて寛也は、潤也の歩いていった方向へ目を向けた。

 ここにいろと言われたが、杳を捜しに行った潤也がなかなか戻ってこない。もうかれこれ15分か20分は経っている。まさか、有り得ないと思うが、杳を口説いてなんかいないだろうなと、不安になってみたりする。

 そわそわする寛也に気づいて、ゲーム画面から目を逸らさずに翔が呟くように言う。

「結界が張られました。何かあったみたいですね」
「えっ?」

 翔の言葉に振り返ると、翔は相変わらずゲームの手を休めることはなかった。戦いの飲み込み方は、どんな方法であれ、早いのだろう。翔のレベルは次々上がっていた。

「結界を張る余裕があると考えるべきか、僕達を呼びに来る余裕もないと考えるべきか」

 翔の言葉に、寛也がちょっと様子を見に行こうとした時。

「ヒロッ」

 杳が駆けてくる姿が見えた。その気配に、翔はハイスコアのゲームをあっさりと手放した。

 杳がすぐに、息せききって駆け寄ってきた。

「走るなって言ってんだろ」

 もう激しい運動はできないだろうと潤也に教えられてから、寛也はすっかりその気で、心配症になっていた。

「んなこと言ってる場合じゃない。潤也が委員長と戦ってる」

 杳の言う委員長とはもちろん杳のクラスの委員長の事で、言わずもがな敵対している青雀のことだった。

 少し前に、潤也が何らかの警告をしていた筈だった。

「成る程ね。それで結界って訳か」

 のんびり返す翔に、苛々したように杳が言う。

「何とかしてよ。相手、強いんだろ? 潤也、やられたら…」

 そんな杳をクスリと笑って。

「やられないよ、風竜は。それに、結界を張ったとは言え、こんなに人の町の近くに張るってことは、お互い、本気じゃないと思うよ」

 言って翔は寛也を見やる。目を向けられて、寛也も漠然とそんな気がしていたと気づく。精々、腕試し程度なのだろうと。

「そんなこと、言ったって…」
「それに、下手に出て行ったら僕達の正体までバレてしまうよ。父竜の存在が分からない今、相手にはなるべく隠しておいた方がいい。多分、潤也さんはその為におとりになったんだと思うよ」

 杳を幾度となく襲った化け物から、杳を守れる者が側にいるだろうことは、敵に知られているだろう。下手に探られて全員ばれるよりはと、思ったのだろう。そう、翔は淡々と言った。

「でも杳兄さんがそんなに心配するなら、見に行ってみる?」

 言って、翔は立ち上がった。

「遠くから見ているだけならバレないと思うから」


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