第6章
羽化
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「悪いようにはしねぇよ。お前にも優しくする。だから、俺の物になれ」
「…父竜に会わせてくれる?」

 杳の決意した言葉に、今度は佐渡の方が言葉に詰まる。その表情から、それが難しいことだと、杳は知った。

「現代に転生してるんだよね? だからあんた達が動き出した。そういう事じゃないの?」
「転生はしている。だが、今のお前を会わせる訳にはいかねぇ」
「どうして?」
「お前が本当に俺の物になったら、会わせてやる。それまでは駄目だ」

 言って佐渡は、今度は杳の手を取る。冷たく、体温の感じられないその指に、唇で触れる。

「オレがあんたの物になったら…」

 杳の言葉に、顔を上げる佐渡。

「ああ。いくら父竜でも、懐に入った者を殺しはしない」
「…分かった」

 小さく言う声に、佐渡は杳の身体を抱き寄せる。

「あっち行かねぇ?」

 言って、杳の肩を抱きながら、物陰に向かった。


   * * *


「んー、スコア、伸びねぇな」

 コンティニューからゲームオーバーの画面に切り替わり、ゲームに見切りをつけた寛也は大きく伸びをする。

「ヒロは総じて雑だよね。早いけど動きに無駄があるから、その間にダメージを受けてる」
「おっ。言うじゃねぇの。なら、やってみろよ」

 寛也が立ち上がり、潤也に席を譲ろうとする。が、潤也はやる気がないのか、座ろうとせず、その代わりに翔が進み出る。寛也のやっている横で、ずっと興味深さうに見ていたのだ。

「僕にやらせてください。大体、飲み込めましたから」

 シートに座り、翔は小銭をゲーム機に入れた。画面が切り替わり、ゲームが開始される。

 その翔から目を逸らし、寛也はふと、杳がいないことに気づいた。

「おいジュン、杳は?」
「えっ?」

 問われて潤也も初めて気づいたように、辺りを見回す。どこかその辺りで遊んでいるのではないかと思って。が、視界の届く範囲にはその姿は見当たらなかった。

「一人で帰ったのか…」

 そう言えば帰りたいと言っていたのを思い出す。が、潤也の言葉はそれを簡単に否定する。

「いや。この中にはいると思うよ。勾玉の気配を感じるから」
「何だよ、それ」
「僕固有の特技だよ。ちょっと捜してくる」

 言って潤也は、ゲームを始めた翔に気づかれないようにシートから離れた。そして寛也に耳打ちする。

「ヒロはここにいて」

 それだけ言って、潤也は人込みの中へ消えていった。それを見送る寛也の耳に、ゲームの音が入ってきて、自然に興味がそちらへ向かってしまった。


   * * *



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