第6章
羽化
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「んじゃ、俺がやってみせるから、お前ら、見てろよ」
寛也が慣れたもののようにシートに座り、小銭をゲーム機に入れた。寛也が選んだのは、旧来からよくある格闘物だった。スティックを握り、展開されていく画面に映るキャラクターで敵を倒していく。パンチにキックに、連続技に。どうすればどんな技が繰り出せるものか、不思議に思いながら、潤也と翔は物珍しそうに見入った。それを横目に、杳は少し離れた所にある自動販売機に寄って行った。
自動販売機の前で少し考えて、スポーツドリンクを選んで手に取ったところで、肩をポンとたたかれた。何げなく振り返って、ギョッとした。
「な…」
声を上げようとして、その前に口を塞がれた。
「わめくなよ。あいつらに見つかるだろ」
そう言って、相手――佐渡亮は寛也達の方を目で指し示した。杳はムッとしながら佐渡の手を払いのけた。
「学校の外まで付いてくるなんて、あんた、マジでストーカーじゃないの?」
「んな訳、ねぇだろ」
返して、苦笑を浮かべる。
「たまたま来てただけだ。お前らより先に来てたんだからな」
言いながら、佐渡自身もペットボトルを買う。それをじっと見やっている杳を振り返って。
「今日は逃げねぇんだな」
「それを言うなら、あんたこそ最近大人しいじゃない? 新しい恋人でもできた?」
厭味で言ったつもりだったのに、佐渡はにやにや顔だった。
「何だ、俺に纏わり付かれねぇと寂しいか?」
「誰がっ」
馬鹿馬鹿しいと、杳はすぐに佐渡に背を向ける。その手を掴まれた。
「ちょっと、放せよっ」
振り払う手。相手が眉の根を寄せるのが分かった。
「杳…お前…」
プイッとそっぽを向いて、その場から立ち去ろうとする杳を、佐渡はもう一度呼び止める。
「待てよ」
無視する杳の肩を捕まえて、その手を叩かれた。
「お前の手…それ…」
言われて杳は手を握り締めて、背後に隠す。
「今、来たばかりだから。外、寒かったし」
ひんやりとした手はまるで血の通っていない者のようだった。見やる白い顔も思い至ってみれば、生者のようにはとても見えなかった。
佐渡はぞっとするような自分の想像を口にする。
「お前、生きた人間には見えねぇ」