第6章
羽化
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「大丈夫なのか?」

 レストラン街を出て、ゲームセンターのある一角へ向かって歩きながら、うつむき気味の杳に気づいて寛也が声をかけた。横顔がどこか辛そうに見えたのだが、声をかけると杳は奇妙なことにその色を消して、凛とした瞳を向けてきた。

「何のこと?」
「え…だって、さっき疲れたって 」
「つまんないから、そう言っただけ」

 前を歩く潤也と翔には聞こえないように言う。聞いたら気を悪くするだろう。

「ね、ヒロ。今度の日曜日、あいてる?」

 ひそひそ声で聞いてきた。

 今日も本当は二人で来る予定だった。寛也としては、前の二人は予想外の邪魔者だったのだが、杳の方も同じように思っているのだろうか。

「今度って、期末直前じゃねぇか」

 なので今日遊ぼうと言う話になったのだが。別に寛也としては試験前でも期間中であっても勉強など殆どしないので構わないのだが。

「ダメかなぁ?」

 不安そうに見上げてくる杳に、駄目だなんて言える筈もなかった。

「どこか行きてぇ場所、あるのか?」

 言うと、一気に表情が変わった。柔らかく笑む杳に、目が釘付けになる。最近、以前にも増して不機嫌なことが多くなった為か、笑顔がひどく印象的に見える気がする。

 元来が奇麗な顔立ちに、日差しが柔らかくなるに従ってその肌も白く透き通るような色を見せていた。ひどく儚げな雰囲気を伴って。

「うん、スキー」
「はあ?」

 とんでもない事を言う杳に、耳を疑う。この温暖な岡山において12月になったばかりの今、雪の便りは未だ聞こえて来なかった。県北に行けば人口ゲレンデくらいはあるかも知れないが、何も期末考査前日に行かなくても良いのではないだろうか。

「ほら、夏に言ってたじゃない。スキーに行こうって。オレ、行ったことないんだ」
「でもな、それなら冬休みにでも…」
「そんなことしてたら、また翔くん達がついて来るよ」

 確かにそうだろう。特に最近は寛也の竜の力が使えないことと青雀のこともあって、ボディガードも兼ねて、事あるごとに付き添ってくるのだ。それを考えると、試験前日と言うのは絶好の日程かもしれなかった。それにしても――。

 答えに愚図る寛也に、杳はあっさり見切りをつける。

「じゃあ、いいよ」

 そうそっけなく言って、杳はそのまま寛也を置いて潤也達の後を追った。それを唖然として見送った。

 突然、訳が分からないことを言う。単なる気まぐれだろうが、今度は何が気に入らないのだか。

 少し肩を竦めて、寛也も追いかけた。


   * * *



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