第6章
羽化
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「何、想像してたの?」
見ると、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。
「何って…」
「もうすぐクリスマスだからね。期待してるんじゃないかと思って」
「期待?」
「杳と何か良いことでもないかなーって」
「わーわーわーっ」
言葉尻を上げていく潤也を、寛也は慌てて止める。その声が大きくて、すれ違って行く人が二人を振り返っていった。それに気づいて、寛也は声を小さくする。
「お前、最近、下世話だぞ」
「ふふーん。いいけどねぇ。兄として良いことを教えてあげようと思ってたんだけど」
「何言ってんだ。兄貴は俺だろ」
「こっちじゃなくて」
ニヤリと笑う潤也。
寛也と潤也は双子の兄弟で、寛也が先に生まれたので戸籍上は寛也が兄になっている。しかし、竜体の方では11体の兄弟がいる中で、寛也の炎竜は末弟であり、潤也の風竜は三男であり、かなり上の兄だった。そのことを潤也は言っているのだ。
「ヒロ、そろそろ羽化したいと思わない?」
「えっ!?」
「強制的に羽化する方法が有るのを思い出したんだ」
「ホントかっ!?」
また声が大きくなる寛也。が、すぐに気づいて、声をひそめる。
「そんな便利な方法があるんなら、すぐにでもやってみるっきゃねぇよな」
竜体になれないと言って、人間生活に何の不便がある訳でもない。が、今一番欲しているのは竜の力だ。杳の為に。
「なぁ、どうするんだ?」
目を輝かせて聞く寛也に、潤也はちらりと杳の方を見てから、にっこり笑みを浮かべて告げてくれた。
寛也が目を剥くようなことを。
* * *