第6章
羽化
-1-

2/8


「何、想像してたの?」

 見ると、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。

「何って…」
「もうすぐクリスマスだからね。期待してるんじゃないかと思って」
「期待?」
「杳と何か良いことでもないかなーって」
「わーわーわーっ」

 言葉尻を上げていく潤也を、寛也は慌てて止める。その声が大きくて、すれ違って行く人が二人を振り返っていった。それに気づいて、寛也は声を小さくする。

「お前、最近、下世話だぞ」
「ふふーん。いいけどねぇ。兄として良いことを教えてあげようと思ってたんだけど」
「何言ってんだ。兄貴は俺だろ」
「こっちじゃなくて」

 ニヤリと笑う潤也。

 寛也と潤也は双子の兄弟で、寛也が先に生まれたので戸籍上は寛也が兄になっている。しかし、竜体の方では11体の兄弟がいる中で、寛也の炎竜は末弟であり、潤也の風竜は三男であり、かなり上の兄だった。そのことを潤也は言っているのだ。

「ヒロ、そろそろ羽化したいと思わない?」
「えっ!?」
「強制的に羽化する方法が有るのを思い出したんだ」
「ホントかっ!?」

 また声が大きくなる寛也。が、すぐに気づいて、声をひそめる。

「そんな便利な方法があるんなら、すぐにでもやってみるっきゃねぇよな」

 竜体になれないと言って、人間生活に何の不便がある訳でもない。が、今一番欲しているのは竜の力だ。杳の為に。

「なぁ、どうするんだ?」

 目を輝かせて聞く寛也に、潤也はちらりと杳の方を見てから、にっこり笑みを浮かべて告げてくれた。

 寛也が目を剥くようなことを。


   * * *



<< 目次 >>