第6章
羽化
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「もう、二カ月か…」
呟いて、寛也は天井の硝子越しに見える12月の空を見上げた。
短かった秋が終わり、街にはジングルベルが流れていた。もうすぐクリスマス。店頭にはどこもクリスマスグッズや、プレゼント用の商品がディスプレイされ、人目を引いていた。
近年できたシネマタウンに杳を誘って出掛けた土曜日、例によって付いてきた潤也と翔の男四人でゾロゾロと、映画館に隣接しているショッピングモールを歩いていたのだった。
ふと呟いた寛也の言葉に、杳が不思議そうに見上げてきた。
「何の話?」
最近、少し目が大きくなったと思うのは、顔が痩せたからなのだろうか。そんな杳の顔を見る度に胸が苦しくなる。その寛也の表情を素早く読み取ったのか、杳はすぐに顔を背ける。
「ねぇ、おなかすいた。何か食べない?」
そうして、横を歩いていた翔に声をかける。じゃあ何を食べようかと、潤也も加わっての話に、寛也はひとり取り残されて、三人の後ろを歩いていった。
竜になれなくなって――それに気づいて二カ月。杳の為に竜の力を送れない状態だと気づいてから、一層気にかかるようになった杳の状態。悪くなって倒れるまで何も言わないこの愛しい人は、ここのところとみに生気を欠くようになったように思える。
知らない者が見れば、全くそんなこともなく、我がままで自分勝手に振る舞っているようにしか見えないのだが、その実は、季節とともに、衣服が厚みを増すのと反比例するかのように、身体の線が細くなっていた。指先や首筋や、見える部分の肉が削り取られているのが、目にも明らかだった。
寛也の竜の力を受け入れることで、何とか命を繋ぎとめることができるのだ。その寛也が力を使えなくなって2カ月が過ぎていた。寛也以外の誰の力も受け入れようとしない杳の身体は、どうしようもなく、日に日に弱っていくように寛也には思えた。
最近では、ぞっとしないことも考えてしまう。自分の力が戻るよりも先に、杳の命が尽きてしまうのではないかと。
「…で、いいよね?」
ふと声をかけられて、寛也は我に返る。三人が振り返って、呆れ顔を向けていた。
「な、何だ?」
「パスタでいいよねって聞いたんだけど?」
潤也が代表して答えてくれた。杳は既に知らん顔だ。翔と一緒に、店内図のある方向へ小走りに駆けていく。
「おお、いいぜ」
それを目で追いながら言う寛也に、潤也は脇へ寄ってきて、肘で寛也をつついてきた。