第5章
性徴
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「俺達は別に…そうだ、杳が体育館で隣に座ったから知り合っただけで、それまでは別に…」
「慌てなくてもいいぜ。お前らが学校の外で付き合いがあったってのは一目瞭然だ。それを今更どうこう言うつもりはねぇ。問題なのは、何があったかだ」

 そっちの方が聞かれたくない問題なのにと、寛也はどうしたものかと、眠っている杳を見て、宙を見てと、挙動不審だ。そんな寛也をどう捕らえたのか、突然に言い出した言葉。

「竜を知ってるか?」

 ギョッとして顔を向けたそこに、睨み据えている佐渡の目があった。

「オヤジの田舎に古い伝説があってな。その昔、天から舞い降りた一体の巨竜が人間の女と恋をして11体の子竜が生まれた。だが女は竜を裏切り、人間の男と密通して人の子を産んでしまった。竜は怒って女を殺し、天地を荒らして、その果てに封じられた…」

 話を聞く寛也を、じっと伺い見るような佐渡。その彼に、横から声がかかった。

「オレの父さんの田舎にもあるよ。それに似た話」

 見ると杳が目を開けていた。慌てて顔をのぞき込もうとする寛也を押しのけて、杳は起き上がる。

「『地上に5つの勾玉ありて、天に9つの竜玉を示す。剣(つるぎ)持つ者、これを導き、鏡持つ者、これを映さん』。11体の竜の話だ。どこにでもあるんだね、こんな話。その竜がどうかした?」

 そうさらりと言って見上げる杳は、しかし睨むように佐渡を見ていた。佐渡はそんな杳に肩をすくめて見せた。

「別に。竜巻よりは竜の方が面白いって思っただけだ。それより、大丈夫か?」

 近づこうとする佐渡から逃げるように、杳は寛也に寄る。それに気づいて立ち止まる佐渡。

「心配してくれてありがと。もう平気だから、出ていってくれていいよ」

 横で聞いていた寛也ですら呆れる物言いだった。思わず佐渡の味方をしてしまった。

「でもこいつ、一応、お前のクラスの委員長だし」

 言って、睨まれた。余計な口を挟むなとの意思が伺えた。

「はいはい。今日のところは退散してやるから、安心して休め。じゃあな」

 佐渡はあっさりと呆気なく引き下がり、そのままさっさと保健室を出て行ってしまった。

「杳…」

 佐渡が出て行くのを待って寛也は、あれは言い過ぎだと言おうとした。その前に、腕を強く掴まれた。

「今まで気づかなかった…あいつ…青い翼、持ってる…」
「は?」

 その顔をのぞき込むと、唇をぎゅっとかみしめていた。

「…竜の色をした気が見えた…」

 言って、握り締めてくる杳の手に力が入った。


   * * *



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