第5章
性徴
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保健室より寛也の自宅へ連れて行きたかったが、佐渡が命令口調で言うので、仕方なく保健室へ運んだ。
行くと養護教諭の佐藤は、またかと呟きながら、ベッドを提供してくれた。
気を失ったままの杳をベッドに寝かせて、寛也は大きく安堵のため息をついた。
ざっと見たところでは怪我もない様子で、眠っているだけのようだった。
「それにしても、お前、すげぇな」
寛也は佐渡を振り返って、素直な称賛の言葉を向ける。そんなことを言われると思っていなかったのか、佐渡は少し驚いた顔をする。
「今の時季の太陽を浴びたくらいで煙を上げていたからな。あれならいけると思った」
「すげぇ、すげぇ。俺なんて思いつきもしなかったぜ」
「お前と一緒にするな」
小声で言った言葉は、寛也には聞こえなかった。
「いや、ホント、助かった。ジュンのヤローはどこに雲隠れしたのか出て来りゃしねぇし、今回、マジでやられそうだったし、助かったぜ」
素直に礼を言う寛也に、佐渡は嫌みも言う気になれず、舌打ちで返す。
「別にお前を助けたつもりはねぇ。俺は杳を助けたかっただけだ」
言って佐渡は杳を見下ろす。
寛也も同じように杳を見やる。その顔色は白く、まるで昨日の状態に逆戻りしたかのようだった。また勾玉の力を使ったのだろうか。あの影の中で、身を守る為に。
杳の命は、勾玉の力を使う度に削り取られていく。同じことが何度もあれば、それはあっと言う間に消えてしまうだろう。
「くそーっ、あいつら…」
「あいつら?」
握り拳した寛也に、佐渡は不審そうな顔を向ける。寛也は自分が呟いた言葉に気づいて、ハッとする。人には知られてはならないことなのだ。
「な、何でもねぇ」
慌てて否定するが、佐渡はじっと睨むように見ていた。
「な、結崎。今更だけど、あの化け物、何だと思う?」
聞かれて、一瞬うろたえる。知っているが、本当のことを言える筈もなかった。
「し…知らねぇよ」
「そうだよな。ドッキリって訳でもなさそうだし」
言いながら、佐渡は寛也の様子をじっと見ていて、寛也はまずいと思った。自分はすぐに顔に出るので、勘ぐられても困るのだ。
「杳ももう大丈夫のようだし、ここは俺が見てるから、もう帰っていいぞ」
「杳は我がクラスのアイドルだからな。放ってはおけん」
言って、佐渡は自分から椅子を持ってきて居座ろうとする。