第5章
性徴
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 上位三位だけの受賞式かと思えば、出場者全員が揃っていた。真由の言っていたように予め順位が知らされているのか、つまらなそうにしている子もいた。その中でも、一番ふて腐れているのが言わずもがな、杳だった。

 確かにスカートははいていない。が、膝上20センチ丈のチュニックはミニスカートよりも短めで、その下にはかされているのはショートパンツだった。短パンだとでも言って着せたのだろうか、どう見ても女の子の格好だった。

「ヒロ、よだれ…」
「あ、うん…」

 舞台の上での杳はふて腐れた表情はしていても、格段に可愛いのはどうしても隠せなかった。それを見やって、思わず口をポカンと開けては、潤也に指摘される寛也だった。

「ま、確かにヒロが見とれてしまうのも分からないでもないけどね」

 きっと都会の街を歩けば、一発でスカウトでもされそうに思えた。同じ舞台に上がっている女の子の中にも、ぽーっとして杳を見ている子もいた。

「ヒロ、本当に間が悪いよね」
「はあ?」
「うっかり告白したものだから、杳にフラれて。おまけに校内中に知られているし。もしそうじゃなかったら、ヒロと杳って結構良い仲だって思われてたから、手を出そうって奴も少なかったけど、こうなるとちょっかい出して来る奴が多くなるよ」

 言って、寛也をチラリと見やってくる。

「もう、どれが青雀だかますます区別がつなかくなるよ」

 そう言いながらも、潤也はとても楽しそうに見えた。結局のところ、杳の可愛い姿を見るのが潤也も好きなのだろう。

 とその時、その二人の後ろでこんな声が聞こえてきた。

「杳ちゃん、今日も可愛いなぁ」
「あの足、すげー奇麗だよなぁ。あれで男だなんて信じられねぇ」
「食っちまいてぇ」
「俺、やりてぇ」

 ギョッとするような事を言ってカラカラ笑う連中を、寛也は思わず振り返って睨んだ。

 が、寛也が振り返った時には既に、彼らはびっくりしたように脅えた表情をしていた。見ると先に潤也が睨んでいた。その横顔は、般若のようだと思った。ぞっとして見やっている寛也と目が合うと、潤也は何事もなかったように舞台に目を向けた。

「お前…」

 潤也も杳のことが好きで、大切に思っているのは自分と同じなのだと、寛也は今更ながら思った。

 そんな二人の見守る中でミスコンテストの優勝者が発表されて、場内は歓声の渦に包まれた。

 くす玉が割られ、スポットライトを浴びてみんなの注目の的になっている杳。その姿に、寛也は何だか杳が遠くなってしまったような錯覚を覚えた。

 副賞の温泉旅行のチケットをもらって少し嬉しそうにほほ笑むと、それだけで場内が沸き立っていた。男子の太い声での「杳ちゃん」コールや、女子の黄色い声援でいっぱいになる。

 自分の知る杳とはまるで別人のように思えた。いつも我がままで、寛也に無理ばかり言ってきて、それでいて、寛也だけを頼ってくれていた、そんな杳だったのに。


   * * *



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