第5章
性徴
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「格好がつかねえってんなら、保健室で休んでりゃいい。俺が代わりに商品、もらってきてやるから」

 それは寛也が舞台に上がると言うことで、ブーイングの嵐になるだろうことは一瞬で見当がついた。それが分かっているのかどうか、寛也は呑気な口調で続ける。

「いやぁ、まぁ、校内の綺麗どころに囲まれるってのも、いいかなぁ。出るのはトップ3くらいか?」

 そう真由に聞く寛也。途端、杳が声を上げる。

「ダメだよっ」

 寛也の背に隠れていたのに、飛び出してきて正面に立つ。

「何でだ? 温泉旅行、親にプレゼントするんだろ? だったら俺がもらってきてやるよ」
「ヒロはダメッ」
「何で?」
「ヒロにオレの代わりなんて務まる訳ないじゃん。オレより下のくせに」
「な…っ」

 絶句する寛也に背を向けて、杳は真由を振り向く。

「オレ、出る。でもスカートははかないから」

 そう言った杳の姿を見やる真由の口元が、ニヤリと笑ったことに潤也は気づいたが、敢えて知らん顔をしてしまった。

「いいわよ。でもその制服じゃあね。ちょっと着替えてもらうわよ」
「…分かった」
「じゃ、急いで。もう時間がないから」

 少しふて腐れたようの顔をする杳の手を掴んで、真由は双子を振り返る。

「貴方達のお姫様、少し借りるわね。もう席は一杯みたいだけど、立ち見ならあると思うから、見るなら急いだ方がいいわよ」

 そう言い残すと真由は駆け出した。足取りの重い杳を半ば強引に引っ張りながら。

 振り返りもしない杳を見送って、潤也が口を開く。

「あしらい方、上手くなったんじゃない?」

 潤也の言葉に、寛也は眉の根を寄せた。

「は? 何のことだ?」
「…もしかして、無意識?」

 呟いてため息をつくと、潤也は先に歩きだす。方向は体育館。寛也は、言っている意味が分からないと、首を傾げながらその後を追いかけた。


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