第5章
性徴
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「あ、いたいた。葵くーんっ」

 暇だからお化け屋敷にでも入ろうかと話し合って移動しようとしていた時、杳が名を呼ばれた。振り返ると、K組女子クラス委員の河野真由が駆けてくるところだった。

「もうっ、ダメじゃない。こんな所で何やってんのよっ
「は?」

 キョトンとする杳の腕を真由は捕まえる。

「葵くん、ミスコン、ダントツ一位みたいだから。表彰式には出なきゃならないの」

 言って、そのまま腕を引こうとする。慌てて杳はその手を振り払った。

「やだっ。もう絶対にスカートなんてはくかっ。女装なんてまっぴらだ!」

 そう怒鳴ると、逃げるように寛也の背に隠れた。

「ヒロも潤也も何とか言ってやってよ」

 顔を見合わせる双子。困ったような顔をして、まず口を開いたのは潤也だった。

「杳の女装、可愛かったからねー」

 言って、ギッと睨まれて苦笑を返す。それを見やって寛也が続ける。

「嫌なら、そのまま出ればいいんじゃねぇの? もう選考には影響ねぇんだろ?」
「そーねぇ」

 真由は嫌がっている杳を見やって、考える風をする。嫌がられて、舞台に立ってくれなければ、下手をすると棄権扱いになってしまわないとも限らない。それならばいっそ、今の男子の制服のままでもいいかと思いつつも。

「いいの? 男子の格好のままで女子に混じって受賞するんだけど?」
「どっちもヤだ。ミスコンなんてもう出ないっ。オレが聞いたのは昨日の昼のことだけだ。それ以外は知らない」

 もうすっかり駄々っ子のようだった。潤也と寛也は大きくため息をついて、共に困っている真由と杳を交互に見やって、お互い顔を見合わせる。

「あのね、杳。こう言っちゃ何なんだけど、このミスコンって、実はブロック競技の得点種目に入ってるんだよね。だからちゃんと授章式には出た方がいいと思うよ」
「やだって言ってるだろ。そんなに出たけりゃ、潤也が代わりに出ればいいんだ。結構、似合うよ」

 杳はそう言って潤也にそっぽを向く。それもいいかと思いつつも、寛也は言う。

「じゃあ、サボれよ」
「え…?」


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