第5章
性徴
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「力は身体の大きさばかりじゃないことくらい、ヒロなら分かるだろ? 青雀は父竜の左足だ。見た目を信じて甘く見てると、手ひどい目に会うよ」
厳しい言葉に、寛也は眉の根を寄せた。
「今日は土曜だから他校の生徒も来てるし、ますます特定できないけど、多分、翔くんが言った通り、奴は校内にいるね」
「それ、どいつなのか分かんねぇのか? 気配とか、妖気とか」
「妖気って…」
潤也は苦笑する。実際、そんなものなのかも知れないが。
「連中もいったん死んで転生して、更に力を押さえ込んで隠している。捜すのは難しいね」
「力を抑えて…?」
そう言えば、校内にいた獣神の気配が翔にも読めなかったことがあったと思い出す。次々に現れる敵にも、潤也達の警告はなかった。
「逆に言えば、僕達も力を抑えている限りは見つからないで済む。ま、時間の問題かも知れないけど」
敵が出でくる度に力を使っているのだ。その場に出くわされでもしたら、一発で知られてしまうだろう。敵を早く潰してしまいたいのは山々だが、今はそれよりも優先したいことがあった。
杳を失わない為に――。
「お前に探せねぇもの、今の俺にはムリか…」
舌打ちする寛也をチラリと見やって、杳が口を挟んできた。
「ね、潤也、青雀って…竜と同じオーラ?」
杳にしてみれば素朴な疑問であろうが、その裏にまた首を突っ込んで行こうとの考えが見えてしまい、潤也は大きくため息をつく。
「杳はいいから。心配しないで」
言った途端、睨まれた。
「何それ。またオレだけのけ者にしようっての?」
「そう言う訳じゃないけど…君には危険だから」
「危険なのは潤也だってヒロだって同じじゃない」
「同じじゃねぇよ」
潤也に食ってかかろうとする杳の肩に手を置いて、寛也が言う。その寛也を振り向き様に睨む杳。まったく、気ばかり強いのだからと、内心苦笑する。
「お前は人間なんだ。俺達は電車に轢かれても死なねぇけど、お前、ぐちょぐちょになるだろ?」
そう言うと、寛也は杳に向こう脛を蹴飛ばされた。
「たとえが悪いっ」
言ってプイッとそっぽを向く。脛を押さえて痛がる寛也に、潤也は冷めた声で教える。
「一応ね、列車に轢かれると、僕達でもぐちょぐちょにはなるんだけどね」
ただ、精神体が健全であるならば、すぐに再生できるのだ。それだけなのだが。
「取り敢えず、トラップでも仕掛けてみるよ。引っ掛かってくれるといいんだけど」
言って潤也は締めくくった。