第5章
性徴
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「やっぱ何だなぁ。文化祭って文化部に入ってなきゃ行くとこもねぇし、つまんねぇもんだな」
寛也は結局ケーキを食べていた。ここは自分のクラスだろうにと、前に座った潤也が呆れた顔を見せる。その横で杳はそっぽを向いたままだった。
「お前ら、すっかり常連だな」
言って珈琲のおかわりを運んできたのは小早川だった。一応、ここの責任者になっているので、連日ここにいることになっているらしかった。その実、ここで校内の情報収集をしているのではないかと寛也は疑っていた。
「はい、杳ちゃんはオマケね」
小早川は杳のティーカップの横にクッキーを乗せた皿を置いた。キョトンとして見上げる杳にウインクを送る小早川は、後ろから寛也に尻をつねられた。
早々に退散した小早川をシッシと手で払って見せ、寛也は杳の目の前のクッキーに手を伸ばそうとして、潤也にはたき落とされた。ケーキを食べながらすることかと。
「杳、午後からミスコンの結果発表があるけど、出なくていいの?」
ギリギリ投票に間に合った潤也は、清き一票を投じてきた。きっと杳も寛也も無関心なんだろうと思いつつ。
「今日のことは何も聞いてないから」
「いらねー、いらねー。大体、こいつが選ばれる訳ねぇだろ。男だぞ」
寛也は潤也の目をかい潜り、杳のクッキーをひとつ掠め取って言った。潤也はそれを見やって呆れ顔だ。
「その杳に首ったけなのはどこの誰でしょうねー」
ゲホッと思わず咳き込む寛也は、クッキーの破片を撒き散らした。
「またぁ。ヒロ、汚いっ」
言って、正面に座っていた杳が立ち上がる。被ったクッキーの粉を払って、ふと、その目の端に見えたもの。
「何…あれ…」
寛也と潤也は杳の声に、その見やっていた方向へ同時に目を向けた。窓の外に、人でないものが見えた。
校庭の隅、体育館横の丁度日陰になっている辺りに、黒い影のような物体がうごめいていた。その化け物から逃げ惑う生徒達。悲鳴が遠くに聞こえた。