第5章
性徴
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「ね、今日はどこへ行くの?」

 言って潤也の顔を覗き込んだ。その杳の手に学校祭のパンフレットが握られているのに、潤也は目を留めた。

「あ…それ…」

 思わず指を差す。と、杳は潤也の指の方向をちらりと見て、はいっとパンフレットを差し出した。

「あの…杳、これ、くれないかな?」
「何言ってんの。それ、潤也の。昨日、貸してくれたじゃん」

 ああと、思い出す。そう言えば教室の机の中に入れたままだから、見せてと言われて貸したのだ。そのパンフレットを受け取って、愛しそうに抱き締める潤也。

「よかった〜〜」
「ゴメン、借りっぱなしで」

 余程大切なものだったのかと、杳は悪いことをしたと思った。なのに潤也の方こそ恐縮したように返してくる。

「ううん。いいんだよ、まだ間に合うから」
「間に合うって、何が?」

 パラパラとパンフレットをめくって、潤也は裏表紙の裏を広げて見せる。

「ミスコンの投票だよ」

 言うと、途端に杳は嫌な顔をする。その顔に潤也は苦笑を浮かべながら。

「明日のね、体育祭のMVPに、優勝した子のキスが贈られるんだって」

 その言葉に、杳はガックリと肩を落とした。

「またぁ? 実行委員会、ワンパタ…」

 言ってから、はっとした様に顔を上げる。

「って、もしかしてオレが優勝したら、そいつとキスするのーっ?」

 かなり引き気味の杳だった。

「ま、可愛い子が多かったからね、君が優勝するとは限らないけど」

 そう言いながらも、潤也はまるっきりその気だった。ついでにMVPになる気も満々だった。その為に個人競技種目に五種目も出場することにしているのだとは、今は言えなかったが。杳がミスコンテストに出場することを予め知っていた2年K組のメンバー以外では、実は潤也が唯一だったのだ。

「そーだよなぁ。オレ、男だし、絶対に男子はオレに投票しないし、女子も敬遠するだろうし」

 自覚がないのは無敵だと、潤也はしみじみ思った。

「おー、お待たせ」

 そこへ元気に駆けて来たのは寛也だった。その姿を見て、杳がポツリと聞く。

「何か用?」

 そっけない言葉に、脱力しそうになるのを何とか持ちこたえて寛也は言う。

「今日は一緒に回ろうぜ。俺、お化け屋敷に行ってみてぇけど」

 杳の眉の根が寄せられるのを潤也はこっそり見た。

「怖かったら、俺に抱きついてくれりゃいいからな」

 途端、寛也は頬を張られた。大きくため息をつく潤也。

「兄弟揃って同じこと言ってんじゃないよ。もういい。オレ、二人とは別行動する」

 言うが早いか、杳は背を向けて歩きだした。顔を見合わせて、慌てて双子はその後を追った。


   * * *



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