第5章
性徴
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「おい杳、もういいのか?」
出欠を取る為にクラスに顔を出すと、案の定、寄って来たのは佐渡だった。熱はないのかと、馴れ馴れしく手を額に伸ばそうとするのを、はたき落とす。
「オレ、デリケートだから、女装なんかさせられて疲れたんだ。もう二度としないからな」
女の子の格好をさせられたのが原因ではなかったが、こう言って置いた方が好都合だと思えて、とっさに口にした。
「そりゃ、悪かったな」
全然そう思っていないだろう顔は、ニヤニヤ笑っている。杳はムッとして、そのまま自分の席につこうとする。その腕を取られた。
「なあ、今日は俺と一緒に歩かねぇか?」
パシリと佐渡の手を振り払い、杳はべーっと舌を出す。
「また結崎か? お前、あんな奴らと付き合ってたら馬鹿がうつるぞ」
同じことを今朝も言われたと思いつつ。
「あんたと付き合ったら下品がうつるからもっとヤだ」
言って、プイッとそっぽを向いた。
そんなしぐさも可愛いと思ってしまった佐渡を置き去りにして、席に座った。
* * *
「何してるの、潤也?」
待ち合わせのベンチに座って、潤也は何やら鞄の中を大捜索中だった。杳の声にハッとして顔を上げる。
「あ、うん、ちょっと、探し物」
「ふーん」
杳はうなずいて潤也の隣に腰を降ろした。伸びをして見上げると、秋の空が高く広がっていた。
「今日も良い天気だなぁ。明日は体育祭だし、晴れるといいね」
のんびりと言う。その間にも潤也はかなり必死のようだった。手帳をめくって、ポケットの中を探して、財布の中まで覗いている。さっき見ただろうものまで、また見直して。
「大切なもの?」
余りにも真剣なものだから、黙って見ていようかと思ったのだが、ちょっと聞いてみた。と、潤也は慌てて鞄を閉じた。
「あ。うん。大丈夫。な…なくてもいいものだから」
「あっそう」
嘘だと丸分かりの態度なのにそう言ってくると言うことは、自分には関係ないことか、知られたくないことなのだと杳は承知していた。
杳は、ポンとベンチから勢いづけて立ち上がると、くるりと潤也に向き直った。