第5章
性徴
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「で、本当に大丈夫なの?」

 トーストよりもみそ汁を食べたいと言いはる杳の為に、潤也はご飯を炊いてみそ汁を作った。それを美味しそうにほお張る杳に、潤也はそれでも心配そうに聞いた。

「うん。一晩寝たら元気になった。ヒロの精気、吸い取ったかも」

 ゲホ、ゴホ、ゴホ…。

 思わず咳き込む寛也を、潤也は汚いものでも見るように横目で見やる。

「ま、こんなんで良ければって言いたいところだけど、余り近づくとバカが移るよ」
「それ、やだ」

 一言で返して、杳は焼き魚を突っ突きながら、横目で寛也を睨んでくる。何で元気な時はこんなに可愛くないんだと、寛也はバターを塗りたくったトーストにかぶりついた。

 朝起きて、杳はすっかり元気になっていた。昨日のことが一過性のものなのか、それとも本当に寛也の竜の気が眠っている間に悪さをしたのか分からなかったが、今朝はすっかり減らず口が増えていた。

「それよりヒロの方、どうなの?」

 箸の先をちょこんと口元に持っていったまま、聞いてくる杳。もう勘弁してくれと、目を逸らして、ハムエッグをフォークで突き刺す。

「力が使えてなかったみたいだけど?」

 言われてビクリとする。しっかり見られていたようだった。

「ああ、ちょっとな。スランプってとこだ」

 目を合わせずに言う寛也の横で、潤也が吹き出した。

「心配しなくて大丈夫だよ。ちょっとの間、力が使えなくなっただけなんだから」
「えー、やっぱりぃ?」

 明かに浮かぶ、目の輝き。

「へぇ。じゃあ、オレより下じゃん」
「な、何で下なんだよっ」

 ムッとして聞くと、杳は楽しそうに返してくる。

「だって、成績はオレの方が上だし、顔もオレの方が良いし」

 成績は、ドングリの背くらべ程度だと言い返したかった。が、そう言う杳の邪気のない笑顔に、寛也は何だかホッとするものがあった。実は力が使えないことで、かなり落ち込んでいる部分もあった。日常生活に何ら支障がないので良いのだが、もし昨日のようなことがあっても、敵に太刀打ちできないのだ。

「と言うことでね、今度からは何かあったら僕を呼ぶと良いよ。ヒロを頼みにしても時間のムダだからね」
「おい、ジュン…」
「うん、そうする」
「杳まで…」

 あんまりだと思った。落ち込む寛也に、杳は変わらない明るい声で。

「でも、ヒロも頼りにするから」

 思ってもみなかかった嬉しい言葉に顔を上げると、笑顔があった。

「逃げる時の盾くらいにはなるし」

 思わず、口に入れていたトーストを吹き出してしまった。

「あー、汚い…」
「また食べ物を粗末にしてっ」

 そしてまた、怒られた。立つ瀬がなかった。


   * * *



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