第5章
性徴
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 ――暑苦しい。

 そう思いながら、寝返りを打とうとして、ふと邪魔するものがあった。柔らかなその触り心地に、寛也はぼんやり目を開けてみて、そこにあったものに声を上げた。

「うわあああぁぁ――っ!!」

 一度に目が覚めて、文字通り跳び起きた。

 目の前で、杳が気持ち良さそうに眠っていたのだった。

 寛也は思わず辺りを見回した。間違いなくここは自分の部屋だった。寝ぼけて本能のままに夜這いをしてしまったのかと一瞬自分を疑ったが、違うようだった。

 昨夜、家に杳を泊めた。別室に床を敷いて寝かせた筈だった。それが何故寛也の部屋で、寛也の腕の中で眠っていたのか。

「ヒロッ、朝っぱらうるさいよっ」

 ドタドタ足音が聞こえたかと思うと、ノックもせずにドアを開けて、潤也が怒鳴り様に頭を突っ込む。寛也は条件反射的に、毛布で杳の身体を隠した。潤也に見られないように。

「わ、悪ィ…変な夢、見た」

 寛也が何とか言い訳を取り繕うのに、潤也は手元の毛布の膨らみに目を向けてから、ギロリと寛也を睨んだ。

「起きたんなら、さっさと着替えて手伝ってよ。お弁当、作ってるんだから」

 そう言うと、プイッと出て行った。思いっきり音を立ててドアを閉めて。

 潤也が行ってしまってから、寛也は大きく胸を撫で下ろした。その途端。

「何なの…」

 もそもそと、頭から被せた毛布をくぐって、杳が顔を出した。

「杳、お前…」

 寛也は困惑した頭のまま、杳を見やる。

 杳は眠そうな目をこすりながら、そのままもう一度毛布にくるまろうとする。まだ寝ぼけているのだろう。その杳から毛布を剥ぎ取った。しかし、杳はそんなことはお構いなしで、背を丸めて眠りに落ちていく。

「何で…」

 朝から目眩がしそうだった。

 とは言え、安心しきったように眠る杳の横顔に目を向けて、その寝顔に目が釘付けになる。

 そっと手を伸ばして頭を撫でてやると、それが嫌なのか首をすくめる。指先で頭から頬をなぞり、顎を捕らえる。

「杳…」

 小さく名を呼んで、唇を近づけた。重ね合わせようとした寸前、ぱっちりと杳の目が開いた。

「何…してるの?」

 途端、寛也は跳びはねるように後方へ退いた。

「い、いや、あの…具合、どうかなって…見ようと思って」

 寛也の慌てっぷりなどまるで気にした様子もなく、杳はゆっくり起き上がった。昨日パジャマ代わりに貸した潤也のTシャツがぶかぶかしていて、尚一層なまめかしく見えた。慌てて目をそらす寛也。

「ぐ、具合、どうだ?」

 どもりながらの寛也の問いに、杳は毛布を畳みながら返す。

「大丈夫。ヒロ、温かいから良く眠れたし」

 赤面するようなことを平気で言ってくる。杳のことなので多分、他意はないのだろうが、言われた方は心臓がバクバクものである。

「で、何で、ここで寝てんだよ?」

 聞きながら、ちょっとヤバイと思い始める寛也。身体の特定の一部が反応してきていた。が、杳はぼうっとした顔のまま。

「眠かったから」
「いや、だから、それが何で俺のベッドなのかって聞いてんだ」

 聞かれて杳は少し首を傾げてから。

「ヒロのベッドの方が気持ち良さそうだったから」

 ――まずいっ。

 杳の何とも言えない可愛い答えに、寛也は限界を迎えた。これで二日連続だった。

 寛也は慌ててベッドから飛び出すと、部屋を出てトイレへ一直線だった。

 自分の醜態に泣きたくなってきた。潤也がキッチンから顔を覗かせて何か言っていたが、聞き取れなかった。


   * * *



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