第5章
性徴
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体育館の舞台袖の一室。そこに掃きだめた塵のように積まれている残骸があった。それを見下ろして舌打ちする。
「俺にこれを見ろってか?」
腹立たしげに言って、カッと目を見開く。途端、青い炎の渦が舞い、残骸を焼き尽くしていく。灰ひとつ残さぬ勢いの炎だった。
後に残ったものは、彼一人。もう、そこにあった異形のものの姿も気配すらも消え失せていた。
「芝鬼(シキ)」
彼が呼ぶ声に、影で何かがうごめいた。
「ここに」
そこに現れた気配に、振り向くこともせず。
「風竜の正体を探れ。校内にいる筈だ」
「御意」
うなずいて、そぐにその気配が闇の中へ消える。
この残骸の傷口から考えられる相手は、竜神達の三番目の風竜と思われた。それとともに、残骸を残して尚も切り刻むその残忍さ。眉をひそめるようなことを平気でするのは彼としか考えられなかった。
風竜は竜神達の中で最もその存在を隠すことに秀でた力を持っている。しかし、校内に限って言えば、見つけだすことも不可能ではないと考えた。
「アイツ、潰してやる」
ギリギリと音の出るくらいに歯軋りをして、ふと、彼はその気を静めた。
と、ドアが開かれる。
「あ、いたいた」
顔を覗かせた女子生徒に、彼は普段の顔を見せる。
「葵くん、具合が悪くなって帰ったんだって。聞いた?」
「ああ…いや」
答えながら、自分も外へ出る。
「ま、舞台のお披露目だけでも十分だったけどね」
何も気づかず話す少女に、彼は笑って答える。
「病気がちな方が、儚げで受けるものだからな」
言って、歩きだした。人に見えざる蒼色の翼をその背に背負って。