第5章
性徴
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「この前から少しずつ小さくなっていたけど、もう、全然見えない」

 言われて寛也は自分の身を顧みる。そう言えばこの前、熱を出した時に同じようなことを言われたと思い出す。熱が下がって、もうすっかり忘れていたのだった。

「ね、杳。君の目にはどんなふうに見えるの?」

 潤也の問いに少し考えるふうをして寛也を見やる。

「何か…厚い層に覆われて見える。それが邪魔してるのかなって…」
「ふーん…」

 一度うなずいてから、潤也はさっさと話題を変えてしまった。

「分かったよ、杳。ヒロのことはいいから、君はもう少し眠って」

 言って、頭を撫でる。杳は心地悪そうに首をすくめてから、もう一度寛也を見上げる。

「眠るまで側にいてよ」

 握った手に力を込める杳。その二人を残して潤也は先に部屋を出る。

 これはもう、誰にも勝ち目はないと苦笑して。


   * * *


「は? マユ?」

 杳が眠ってからキッチンへ行くと、潤也がにまにま笑いながら待っていた。その潤也から思いも寄らないことを言われ、寛也は唖然とする。

「マユって、蚕とかの繭か?」
「そう。成竜になる前の成長過程だよ。あー、もう、すっかり忘れてた。戦だけがまだだったんだ…」

 何のことだか、寛也は首を傾げるばかりだった。

「繭を被っているから、力が出せないだけなんだよ。大丈夫。羽化すれば元に戻るから」
「羽化って…いつ、どうやってするんだよ?」
「まあ、個人差はあるけど、僕は半年くらいかかったかな…。早かったのは闇竜で、三日くらいで羽化してたけど、彼は早熟だったから。…あれ? 歌竜もまだだったかな…」

 独り言のように言いながら潤也が首を傾げるのに、寛也はテーブルに突っ伏した。

「勘弁してくれよ。半年だと?」

 その間、もし何かあっても杳を守れないのだ。どうしたものかと頭を抱える。

 その寛也を見下ろすようにしながら、潤也は年長者のようにしみじみと言った。

「ヒロもようやく大人の仲間入りなんだね」

 寛也の気分は、それどころではなかった。


   * * *



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