第5章
性徴
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居間として使っている畳の間に布団を敷いて、杳を休ませた。学校から連れ帰る間、何度か人垣に囲まれたが、とうとう一度も目を覚まさなかった。
「ヒロ、もう一度やってみてくれない?」
杳が眠るすぐ脇で、呆然と座り込んでいる寛也に声をかけてくる。顔を上げると、潤也が厳しい表情をしていた。
「竜玉、あるよね?」
念のために聞いてくるの潤也に、寛也は右手を広げて見せる。そこにピンポン玉大の赤い玉を出現させる。
「竜にはなれてる?」
「え…最近は全然…」
必要がないので、まるっきりだった。
「最後に転身したのは、いつ?」
聞かれて寛也は記憶をたどる。
「先月…かな…」
あやふやな寛也の答えに、眉の根を寄せて見せる潤也。あわてて寛也は言い直す。
「でも力は使ってたと思う。えーっと、えーっと」
思い出そうとして寛也は、日常で必要としないこの力をまるっきり使っていなかった自分に気づく。最後に使ってみたのは、先々月に翔が強引に計画した強化合宿の時のようだった。夏休み中のことである。
「あの時は普通に使えてたよね。一体、どうしたの?」
「よく…分かんねぇ…」
言って寛也は握り締めたままの手を見つめる。寛也の力しか受け容れない杳に、力を与えてやることができない不甲斐なさに、その手を強く握り締める。と、小さな声がした。
「ヒロのオーラ、見えなくなってる…」
いつの間にか杳が目を開けていて、思わず身を乗り出す双子。
「大丈夫か?」
「杳、苦しくない?」
心配そうな二人に、杳は小さく笑う。
「心配かけてごめん。もう、大丈夫」
そう言って起き上がろうとする杳を、潤也が押し止どめた。
「もう少し休んでいるといいよ。泊まっていってもいいから」
「うん」
素直にうなずくのは、本当に具合が悪いからなのだろう。
「それよりも…」
杳は寛也をじっと見上げる。