第5章
性徴
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「よし、OKだ」

 まず寛也が中の様子を探ってから、杳を呼ぶ。

 今日のイベントが終了した体育館は、明日の準備だけが済まされ、もう、誰も残っていなかった。

 寛也と杳の二人は、そこを抜けて舞台袖の用具室に身を滑り込ませた。ドアを閉めてから、ほーっと長い息をつく。

「やっぱり大きいものの陰だと目立たなくていいね」
「何だよ。俺は隠れ蓑(みの)か?」

 明るく言う杳に、寛也は笑って返す。どんな理由であれ、自分を選んでくれたのは嬉しい。

 杳は奇麗にたたまれて椅子の上に置かれている自分の制服を見つけると、それを持って隅に行く。

 舞台上から暗幕越しにしか光の差さないここでは、隅に行くと真っ暗になる。その場所で、ごそごそと着替えを始めた。

 杳の影が、次第に暗闇に慣れて来た目に姿を現していく。

 すっかり痩せてしまった細い肩。それでいて、まだ成長しきっていない、柔らかそうな肌。

 見ていて、寛也は思わず生唾を飲み込み、慌てて目を逸らした。

 何か話をして気持ちを散らした方が良いと思うものの、こんな時に限って話題が見つからなかった。

「ね、ヒロ」

 と、杳の方から声をかけてきた。

「オレって、女の子に見えるのかな?」

 寛也だって杳に会うまで高二男子でこんなに奇麗な子がいるとは思っていなかった。杳の言葉を否定しようにも、すぐに言葉が出てこなかった。寛也の返事がないことに、杳は少し不安そうに聞いてくる。

「ヒロもオレのこと、女の子として見てて、だから好きって言ってるんじゃないの?」

 思わず振り返った。杳の白い背中が見えた。

「違う、俺は…」

 そんな理由で杳にひかれたのではない。

「事実なんだったら、それも仕方ないんだけどね」

 小さく言って、杳はスカートの下に履いていた短パンを脱いで、制服に手を伸ばす。その身を、後ろから抱きすくめた。

「ヒ、ヒロ…?」

 杳は慌てて寛也の腕を引きはがそうとする。が、寛也は尚も腕の力を込めた。

「お前、一体、俺の何見てたんだよ?」

 手に触れるのは、思った以上に柔らかな素肌。その杳の顎を捕らえて、上を向かせると、背後から唇を重ねた。

 腕の中で杳が小さく震えたのに気づいたが、強く抱き締めることでやり過ごした。

「…ん…や…」

 首を振って抵抗する杳を逃がすまいと、尚も深く口付ける。息苦しくなったのか、わずかに開かれる唇から舌を滑り込ませて、きつく吸い上げた。

 空想では毎日のようにやっていた。だから、このまま行けると、過信した。

 やがて抵抗のなくなる杳から唇を離す。

「俺が好きなのは、お前自身だ。見てくれとか、そんなもん関係ねぇよ」

 言って、もう一度唇を重ねた。今度は初めから抵抗がなくて、寛也は腕の力を少し緩める。

「ヒロ…」

 唇を離すと、杳は寛也の正面に向く。見上げてくる瞳が切なげに震えていた。

「お前と、ひとつになりたい…」

 寛也の言葉に、杳の瞳が一瞬だけ曇ったような気がした。しかし、俯きながら返される言葉は肯定だった。

「…いいよ」
「杳…愛してる…杳…」

 小刻みに震える身体を柔らかく抱き締めた。顔を伏せた杳は寛也のその言葉に答えようとしなかった。


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