第5章
性徴
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 言うと杳はようやくに寛也に目を向ける。

「アレだろ。要はアイドルな訳だから、イメージ壊しちまえばいいんだ。例えば」

 何を言い出すのか疑い深い目で見る潤也と翔。杳は次の言葉を待ってくれているようで、寛也はペロリと舌先で唇を嘗めてから続ける。

「杳が俺達三人との4Pが好物だとかって、噂を流すのはどうだ?」

 かなり名案だと思った。大した労力も要らず、杳から人を遠ざけられると。なのに、潤也はガックリと首を垂れて、翔はにらみつけてくる。杳は目を丸くしてから、少し小首を傾げた。

「4Pって、何?」
「お前知らねぇ? 3Pとかってのが一般的で…」

 ガタッと椅子を鳴らして翔が立ち上がった。ケーキをつついていた杳のフォークを奪い取ると、寛也に向けて。

「刺します、ヒロ兄」

 その目は、本気だった。思わず立ち上がって逃げ出す寛也を追いかける翔。狭いケーキ喫茶の中を逃げ惑う寛也の姿を眺めて、杳は肩をすくめる。

「やっぱりオレ、着替えてくる。今なら体育館、誰もいないだろうから」

 言って杳は残ったケーキを掴んで、ペロリと一口で食べた。

「そうだね。少し惜しい気もするけど」

 杳の姿を見てそう言う潤也。知っていて杳に教えなかった自分に一番責任があると気づいていながら、傍観者を決め込んでいたことは伏せて。

「じゃあ送るよ。途中で変なモノに掴まっても困るから」

 同じように立ち上がる潤也を、杳は押し止どめる。

「いらない。ヒロに付いてきてもらうから」
「え?」

 思いも寄らない言い方に絶句する潤也に、トドメの一言。

「潤也、信用できないから」

 そう言われて、潤也は何のことか心当たりが有り過ぎて、立ち直れない程のダメージを受けた。

「ヒロ」

 まだ翔と追いかけっこをしていた寛也に声をかけると、二人とも立ち止まって杳を振り向いた。

「ボディガード、頼みたいんだけど」
「俺?」

 自分を指さして聞くと、杳はうなずく。寛也は翔を見て、勝ち誇ったようにニヤリと笑みを向けた。悔しそうにしながら、翔は寛也よりも先に杳の元へ駆け寄ってくる。

「杳兄さん、それなら僕がするよ」

 杳はその翔の額を指でつついて。

「オレより小さいくせに、何言ってんの?」

 直撃だった。翔は一番気にしている所を突かれて、その場に崩れ落ちる。それを踏み越えて、寛也が緩み切った顔で杳に近づいて。

「やっぱ、一番頼れるのは俺ってことか? そーだろ、そーだろ」
「頑丈だから、波が来たら防波堤になってくれそうだしね」
「…ん?」

 その言葉の意味をどう取って良いものか、寛也は首を傾げながら、杳を追いかけた。


   * * *



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