第5章
性徴
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「この格好でトイレ行ってもいいかな…」
ポツリと呟く杳に、男女どっちのと聞き返して翔が頬をはたかれた。
取り敢えず逃げ込んだのは、午後になってめっきり客足の遠のいた2年A組のケーキ屋だった。客寄せの寛也がいなくなったからか、室内の客は3組程度と少なかった。
寛也達は入り口から一番見えにくい奥の席を陣取り、杳を奥に押し込めた。
テーブルに肘を付いて、手のひらに顎を乗せてため息をついている杳に、寛也の方こそため息をつきたかった。何でこんなにも可愛くできあがってしまっているのかと。これでは狼達に襲ってくださいと言っているようなものだと思った。
「ねえ、何で断らなかったの?」
寛也と同意見なのだろうか、翔は隣に座った杳を見上げて聞く。
「色々あって。もういいだろ」
「良くないよ。余り目立たれると困るから」
「何で翔くんが困るの?」
翔の言葉に杳は不思議そうに小首を傾げる。その杳に赤くなってうつむく翔。すると、彼の言葉を笑いながら潤也が代弁した。
「ライバルが増えるから」
「は? どーいう意味?」
ますます分からないと、杳は目の前に座る潤也に視線を移す。
「翔くんは君にモテてもらいたくないんだよ。自分だけの『杳兄さん』でいて欲しいから」
「潤也さんっ」
バンッとテーブルを叩いて立ち上がる翔の向こう脛を、正面に座る寛也が蹴る。
「問題はそこじゃねぇだろ。杳自身が嫌がってんの、何とかしてやろうと思わねぇのか?」
椅子に踏ん反り返って言う寛也をジロリと睨んで、翔は席に戻る。
「全校生徒の今日一日分の記憶、消しましょうか?」
「千人以上いるんだけど…誰がするの?」
潤也の突き放したような物言いに、翔は肩を落とす。
「そうですね…」
どうすれば良いのか頭を悩ます潤也と翔。この二人なら何か名案を考えつくだろうと、杳は期待を込めて交互に見やっている。その様子に、寛也は面白くないものを感じて、口を挟んだ。
「いい方法、あるんだけど」