第5章
性徴
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 パシッ、パシッと、何かが切れる音だった。

 次の瞬間、周囲にいた男子生徒達の制服のズボンが一斉にずり落ちた。

「おわーっっ」
「何だ、何だっ」

 一様にベルトが切られるとともに、ボタンまで千切り取られていた。慌ててズボンをずり上げながら逃げて行く男子生徒達。

 その一方で、風が舞い上がった。

「きゃああああー」

 女子の悲鳴が轟く。短めのひだスカートが強風に舞い上がって、降ろそうとするのに降りなかった。

「もうっ、やだーっ」

 悲鳴を上げながら彼女達も逃げていく。

 寛也は何が起きたのか分からず、一瞬で片付いた騒動に、はっと思い至って弟の方を見た。

 そこに、涼しい顔をして、手のひらで竜玉をもてあそぶ潤也の姿があった。その横で、逃げて行く連中を翔が睨んでいた。と、その一団に運動場の砂ぼこりが襲いかかっていく。

「変な噂、立っても知らねぇぞ…」

 呆れて呟く寛也に、腕の中から声がした。

「その方がマシなんだけど」

 見ると杳が小さく笑っていた。

「ね、降ろしてよ」

 言われて、抱き上げていた杳を慌てて降ろす。降ろすと、意外にも自分の足でしゃんと立ってみせる。

「大丈夫なのか?」

 寛也が心配そうに顔を覗き込むのを、杳は少しだけ身を引いて答える。

「もう、治った」

 つい今まで青白かった顔に、少し赤みが差して見えたのに、ホッと胸をなでおろす。

 それにしても、間近で見ると、普通の男なら誰でもときめくくらい可愛い。胸がないのを差し引いても、余るくらいだと思った。

 ぽーっとしてしまった寛也は、軽く頬をはたかれて、我に返った。

「ヒロこそ、大丈夫?」
「お…おう…」

 慌てて視線を逸らした。

 心臓が早打ちしてくる。身体中の血の巡りが良くなるような気がした。心底、やばいと思った。





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