第5章
性徴
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「んだってーっ? も一回言ってみろっ」
舞台袖で、はいたままのミニスカートの裾を握り締めて、杳は佐渡を睨み据えた。
「あと半日、その格好して校内を歩けって言ったんだけど?」
「ざけんなよっ」
杳は佐渡の胸倉を掴み上げた。
「短時間って言ったじゃないかっ」
「拘束時間は短いって言ったんだ。後は好きに出歩いていいが、エントリーナンバーの札をつけて、衣装のままってのが原則だ」
言って、そのまま佐渡は殴られてやる。
「こんなこと、やってられるかっ」
怒鳴って服を脱ごうとするのを、杳はまたしても左右から羽交い締めされた。
「ダメよ、葵くん。君が今棄権したら、Kブロックは大損害だわ」
「知るかっ」
真由にすら怒鳴る杳。しかし、身動きが取れなかった。
「劇にも出ない、応援合戦にも加わらない、体育祭での得点競技にも完全不参加。こんなことが許されると思ってるの?」
そう言われると、さすがに返す言葉がなかった。
「君に回してあげた唯一の役割なんだから、しっかりこなしてちょうだい」
言って真由はポンポンと杳の背を叩く。
「温泉旅行、ご両親にプレゼントするんでしょ?」
睨むが、もうこれ以上何を言っても無駄なのだと分かった。夕方までと言うなら、その間どこかに隠れていてやると、そう思って杳は引くことを選んだ。
「分かったよ。やりゃいいんだろ、やりゃ」
吐き捨てるように言って、左右から取り押さえている女生徒達の手を力任せに振りほどいた。
* * *
取り敢えず、逃げるようにこっそりと人目を忍んで歩こう。そう決心して杳はドアを開けた。と、そこに大勢の生徒達が群がっていた。
「あ、出てきた」
「やっぱ、かわいいーっ」
「杳ちゃーん」
野太い声の男子生徒達。
「杳くん、私達、応援してるから、負けないでね」
「きゃー、こっち向いてー」
黄色い声の女生徒達。
杳は怒涛のように浴びせられる言葉と迫ってくる彼らの気迫に、思わずドアを閉めた。
「な…なに、あれ…」
顔を引きつらせた杳に、佐渡は楽しそうに言う。外の様子を知っていたとしか思えない様子で。
「早速、大人気じゃねぇか」
「どーいうことだよっ」
怒って睨む杳に、佐渡はしれっとした顔で、杳の顎に手を伸ばす。
「お前、無自覚過ぎるんだよ。自分がどれだけ人目を引く人間か、分かってねぇだろ。感謝しろよ、俺がお膳立てしてやったんだから。我が校のトップアイドル誕生にな」
言って佐渡はドアを開けると、そのまま杳を放り出した。
「ちょっと待ってーっ」
ひとつの餌に群がる鯉の群れのように、集団が杳に群がってきた。
* * *