第5章
性徴
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「オレは男だ。ミスじゃないっ。ふざけたこと言ってると…」

 ひっぱたいてやろうと思っていると、先に行動された。佐渡は間近にある杳の顔に自分の顔を近づけて、口付けてきたのだ。

 途端、杳は佐渡の頬を殴りつけた。珍しくも、拳だった。

 勢いで後方のドアに背を打ち付けて、佐渡は床に滑り落ちる。

「きゃああっ」

 女子達の黄色い悲鳴は、喜んでいるようにしか聞こえなかった。

 握りこぶしして佐渡を見下ろす杳。その腕を左右から掴む手があった。

「さあ、佐渡くんを殴ってスッキリしたところで、始めましょう。時間もないし」

 言って、杳の腕を引くのは真由。

「えっ、ちょっと…」

 ズルズルと後ろに引きずられ、女子の集団に取り囲まれた。無遠慮にネクタイを緩める手が伸びてきた。他にも、シャツのボタンを外そうとする手、ベルトを外そうとする手。

「何やって…ダメだってば…ちょっと待ってーっ」

 後半は、悲鳴だった。


   * * *


「かなりイイ線、行くと思うわ」

 殴られたまま座り込んでいる佐渡を見下ろして声をかけたのは、相棒のクラス委員の真由だった。手を貸そうかと言うそぶりもなく、下目に見やって言ってくる。佐渡はそんな真由に舌打ちして、ようやくに腰を上げる。

「いってもらわなきゃ、困る。Aブロックには負けたくねぇからな」

 軽くズボンの埃を払い、女子達に寄ってたかって着飾らされている杳に目を向ける。

「いいの? ライバル、増えるわよ」

 佐渡の杳への気持ちは、寛也同様に公然と知られていた。しかし、下馬評では寛也有利ともっぱらの評判だった。

「望むところだと言いたいところだが、増えるのは俺のライバルじゃねぇよ」
「は?」
「あの超奥手野郎に思い知らせてやる」

 呟くように言って、佐渡は不敵に笑う。それを肩をすくめて見やってから、真由もクラスメイトの手伝いに加わっていった。





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