第5章
性徴
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「12時に体育館の舞台袖、向かって右側…」
午前の各ブロックでの演目が終了し、体育館を出て行く生徒達と入れ違いに、杳は体育館へ入って指定の場所へ向かった。
まるっきり興味がなかったので、何をするのか全然知らなかった。佐渡やクラスの連中に聞く気も起こらなかったし。
「おっ、逃げずにちゃんと来たな」
と、ドアが開いて中から佐渡が顔を出す。
「何の用? すぐに済むんだろうな」
「拘束時間は短いけどな」
杳が不機嫌そうに聞くと、佐渡はその腕を取って中へ引っ張り込んだ。
舞台袖の下は、普段は用具室に使われている。いつも倉庫に入り切らないマットや掃除用具が置かれているそこは、今日は奇麗に片付けられていた。
そこでクラスの女子が数人、待っていた。
「なに?」
訝しがる杳に、女子達は揃って笑顔を向ける。
「葵くんの為に軍資金の殆どを使っちゃったんだからね」
言うのは、女子のクラス委員の河野真由(こうのまゆ)だった。彼女は背中に隠していたものを取り出して、杳に見せた。
一瞬、言葉を失う。
白いキャミソールに、レースのボレロ、ふわふわのミニスカートはパステルピンクを基調にした可愛らしいものだった。そして、その横の女子が持つのは、赤いエナメルのパンプス。
「サイズ、合うといいんだけど」
「誰…に?」
杳は一体何のことだか分からず、佐渡を振り返ると、ニヤニヤ笑ったままだった。
「葵くん、細いから女の子用のMサイズでも入ると思ったんだけど、着てみて」
「え…っ」
言われて後ずさる。
「な…何? どーいうこと?」
頭の中を整理しようとしても、全然理解ができなかった。その杳に、佐渡が落ち着いた声をかける。
「午後からな、ここでミスコンするんだよ」
佐渡の言葉に、杳は目の前が暗くなる気がした。まさか、もしかして、ひょっとすると、自分にそれに出ろと言っているのだろうか、その服を着て。
杳は即座に脱出しようとして、ドアに駆け寄る。その正面に佐渡が立ち塞がった。
「逃げる気か? お前、やるって言っただろう」
「言ってないよ。何だよ、ミスコンって」
「ミスコンテストに決まってんだろ」
「じゃなくってぇ!!」
杳は佐渡の胸倉を掴み上げた。