第4章
告白
-3-
8/12
「あ、ヒロ」
潤也の声に杳はハッとして振り返った。そこに、不機嫌そうな表情を浮かべた寛也が近づいてきている姿が見えた。杳が顔を上げると、目を逸らしたのが分かった。
「おなか、すいたんだね…」
昼にはまだ少し早い。学校ではいつも早弁の寛也には間食が必須だった。運動もしたので、余計に腹が減ったのだろう。
「俺の、持って行くから、くれよ」
二人の座っている場所まで足取り重くやって来て、寛也は潤也に声をかける。
「ここで食べていけばいいのに。お弁当箱、返しに来るの、面倒だろ? 一緒に食べよう」
言って潤也は紙袋の中の重箱を取り出した。どうやら運動会気分で作ったらしいと思えるそれは、豪華な三段重ねだった。
「いい。部の連中と食うから」
寛也が潤也の手から重箱を受け取ろうとすると、潤也は意地悪く、それを隣の杳の膝の上へポンと置いてしまった。一瞬ひるむ寛也。
「つれないこと言ってんじゃないよ。それにお弁当は三人分に分けて入れてあるんじゃないんだから」
言って、蓋を取って見せた。成る程、巻き鮨ばかりの段とおかずばかりの段が種類別に二段。
「じゃ…」
別にいいと言いかけて、その前に寛也の腹の虫が盛大に鳴った。プッと吹き出してしまう潤也。
「無理しないの。ほら、座って」
潤也は自分の隣の席を指さす。杳とは潤也を挟んで反対側だった。これならばまだいいだろうと、寛也は渋々座った。それを見届けてから、入れ替わるように潤也は立ち上がる。
「ちょっと食べにくいよね」
途端、杳が困ったように潤也を見上げていた。その杳に、寛也に気づかれないようにウインクすると、ますます困惑した表情を浮かべた。潤也はそれに構わず言う。
「僕、後ろの席に行くから」
言って、手に持った重箱を自分の座っていた席に置いた。ここに置いておけば左右からも取りやすいだろうし、後ろに座れば手を伸ばすこともできる。
潤也は通せんぼをしようという顔で睨んでいる寛也の前は避けて、杳の側から抜け出した。そして椅子の並ぶ列の一番端の通路まで行ってから、大きな声で言った。
「ついでに飲み物を買ってくるから、先に二人で食べててよ」
「えっ、ちょっと、潤也っ」
杳が止める声も聞かずに、潤也は駆けて行ってしまった。