第4章
告白
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「オレ、ヒロのことが好きだから」

 軽い気持ちで本心を告げて、更に予期していた答えであったのに、いざ言われてみるとなかなかこたえた。潤也はその内心を黙って押し殺す。

「だったら、そのことをちゃんとヒロに伝えなきゃ」

 笑って言えているのだろうか。我ながら面の皮が厚いと思いながら。

「ヒロは馬鹿だから言われたことをそのまま受け取ってしまうんだよ。だからちゃんと正直に言わないと、誤解したままだよ」
「…でも」

 またうつむこうとする杳の顎をすくい取って、上を向かせる。

「だったら僕と付き合おうか? 僕は君がヒロのことを好きでも構わない。君を振り向かせる自信はあるよ」

 杳は潤也の言葉に首を振る。

「ダメだよ、オレは…」
「何も怖くないんだよ」

 多分、杳の恐れているものは、記憶の奥底に眠る過去の人の思いの断片だろう。今の杳が背負うべきものではないのだ。

「ヒロが好きなら、そう伝えるだけでいいんだよ。君が恐れている何物からも、ヒロは守ってくれるから」

 杳は不安そうな瞳を上げて、そう言った潤也を見つめてくる。もう本当に、自分のものにできたらと思うのに、いつも優先させるのはこの子の心だった。幸せになれればいいと、それだけを願い続けていた。

 その時、パンと銃声が聞こえた。競技スタートの合図に、思わず二人ともグラウンドに目を向けた。

 と、グラウンドに視線を向けながら言う杳の声が、小さく聞こえた。

「ありがと、潤也」

 感謝の言葉が、これ程に辛いものだと、始めて知った。


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